明けの明星が輝く空に

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第29回:冬木透の宇宙
2012年05月11日

written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】お台場に仕事に行った際、通り道なので毎回ガンダムを拝んでいる。シャア専用の赤いザクの設置計画もあるとか。絶対そっちの方がファンには受けると思うなあ。
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近ごろ、ある自動車メーカーのテレビCMに、懐かしい歌が使われている。エコカー減税で7万円引きということにかけて、"セブン、セブン、セブン"とコーラスが入るその曲。もちろん『ウルトラセブン』の主題歌である。

この主題歌、「ウルトラセブンの歌」でまず思い出されるのが、メロディーラインの合間に入るホルンの音色だ。遠い空から響き渡るかのようなその音は、空間的な広がりを感じさせてくれる。異星人が多く登場し、宇宙空間の雄大さを感じさせるドラマの作風にはピッタリだった。いやむしろ、『ウルトラマン』とは違う『ウルトラセブン』という作品のイメージを作る上で、大きな役割を果たしたと言ってもいいだろう。

作曲は冬木透。『ウルトラセブン』以降も、ウルトラシリーズのために曲を書いたクラシック音楽家である。先月4月5日には、『蒔田尚昊と冬木透の宇宙 Vol.4 交響詩ウルトラセブン2012』と題したコンサートが、上野の東京文化会館で開かれた。「蒔田尚昊(まいたしょうこう)」とは冬木氏の本名だ。コンサート会場には意外なことに、多くの若い女性の姿があった。まさか特撮ファン?いやいや、早合点してはいけない。実は冬木氏は、桐朋学園大学音楽学部で教鞭をとる教師。彼女たちは蒔田尚昊先生の教え子なのだった...。

コンサートは前半が蒔田尚昊作品、後半が冬木透作品の二部構成。最後に5つの楽章からなる「交響詩 ウルトラセブン」が演奏された。平和な情景を描いた静かな曲から、侵略者の存在を暗示する緊迫感に満ちた曲、勇猛果敢な戦いを表現した心躍る曲。次々とお馴染みのメロディーが流れ、ファンにはたまらない。第5楽章「さよならウルトラセブン」を聞きながら最終回の場面・台詞を思い出したら、あやうく泣きそうになってしまった。「行かないで、ダン」「アマギ隊員がピンチなんだよ!」その時は冗談ではなく、本当にもう少しでしゃくり上げそうだったのだ。

冬木氏による『ウルトラセブン』のBGMは、ホルンの他にもトランペットなど管楽器が多用されている。そしてヒーローものならではの、アップテンポで爽快感あふれた曲が多い。例えば主題歌のメロディーをアレンジしたBGM、「ウルトラセブン登場」。いわゆる間奏の部分に、主題歌にはない行進曲風のメロディーが挿入されているのだが、そのパートが実に勇ましい感じでカッコいい。聞いているだけで元気になるし、意味もなく胸を張りたくなってくる。今回のコンサートではアンコールの際にこの曲が演奏され、特撮ファンばかりではない客席全体から自然と手拍子が湧き上がった。それぐらい盛り上がれる曲ということなのだ。(同じような意味で、「ウルトラ警備隊のテーマ曲」や幻の主題歌曲「ウルトラセブンの歌 Part2」も、実に甲乙つけがたい)

一方、全く異なる趣で印象深いのが、クラシックの室内楽曲といった雰囲気を持つ「フルートとピアノのための協奏曲」。軽やかなメロディーに乗せて流れるフルートとピアノの音色が、なんとも言えず心地いい。この曲を聞いていると僕は柄にもなく、日曜の午後に名曲喫茶で紅茶を、なんて気分になってしまう。ところが鬼才、実相寺昭雄監督はこれを、メトロン星人という宇宙人のテーマ曲のようにして使用した。ちゃぶ台を挟んで主人公とメトロン星人が対話する際にもバックにそれが流れ、ウルトラシリーズ随一と言っていいシュールな場面が出来上がったのだった。(実相寺監督については、第7回「変化球の使い手、実相寺昭雄」を御覧ください)

最後におススメをひとつ。それは、昇る朝日を見ながら聞く「ウルトラセブンの歌」のイントロ。日の出の情景と、これ以上ないというほどマッチします。