明けの明星が輝く空に

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第7回:画面の中の舞台演劇
2010年09月02日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】 子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】 「映画『プレデターズ』を観た。屋外なのに密閉空間のような恐怖感を演出。うまい。スーパーヒーロー的な主人公がいないのも◎。」
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テレビ番組なのに、まるで舞台演劇を見ているかのように感じることがある。大河ドラマ『龍馬伝』は光の使い方が独特だが、役者の立ち位置やカメラアングルも含め、なんとも舞台的だと思わせるシーンがあった。確か、龍馬と武市半平太が道場で論じ合う場面だったと思う。

実は、ウルトラセブンにも舞台的と感じたシーンがある。それはセブンと宇宙人が対峙する、"ちゃぶ台のシーン"であまりにも有名な、『狙われた街』の中の一場面。まずは簡単にストーリーを紹介しておこう。

ある街で通り魔的犯行が起こる。犯人は、街の自動販売機で買ったタバコを吸った直後に犯行に及んだ。そのタバコから発見されたのは"宇宙ケシの実"の成分。地球壊滅を狙う宇宙人が、実験のために自動販売機を設置したのだった。そのことがばれた宇宙人はウルトラセブンの前に堂々と姿を現すが、結局倒され、地球の平和は守られる。

舞台的と感じたのは、僕がこの作品で一番好きな、夕闇迫る工場街での戦闘シーンだ。我らがセブンと宇宙人がお互いに向かって疾走し、空中で交錯する。その瞬間、映像は静止画に。両者は光線技など繰り出さず、ただ飛び上がって交錯するだけ。ボディコンタクトも一切なく、戦いは極端に様式化されている。まるで、舞台上での殺陣のようだ。

また、バックには異様に大きなオレンジ色の太陽が浮かんでいるが、これを見ていると、天井から吊り下げられた舞台装置のように思えてくる。そういえば全体的に暗めな上に、赤系統の光でほんのり街を染め上げる照明の手法も、どこか舞台っぽさを感じさせるではないか。

この作品の舞台のような雰囲気は、明らかに意図的なものだと僕は思っている。演出を担当したのは、実相寺昭雄監督。とても個性的な演出や映像で知られた監督だ。次回は「実相寺ワールド」にみなさんをご招待しよう。