明けの明星が輝く空に

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第14回:金色の三つ首龍
2011年03月16日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】花粉症の季節になると『風の谷のナウシカ』を思い出す。僕にとって花粉を飛ばす杉林は、毒の"瘴気"を吐き出す"腐海の森"なのだ。
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科学の進歩は目覚しい。将来、DNAや遺伝子の研究が進み、二つの生物を掛け合わせた新種を作り出したりもできるんだろうか。もしカブト虫とクワガタを合体させた昆虫ができたとしたら?子供たちにとっては夢のような話だ。(売り上げが伸びる昆虫ショップの店長にとっても!)

実は『ウルトラマン』にはすでに、そんな怪獣が登場していた。カブト虫のような重量感のある体に、クワガタの巨大なあごを持ったアントラーだ。それだけ聞くと、かなり人気があったろうと思うかもしれない。ところがこのアントラー、お世辞にも人気怪獣とは言えなかった。僕が思うにそれは、カブト虫やクワガタが持つ硬質感が欠けていたせいだ。想像してみてほしい。体がぷよぷよのカブト虫...。どう考えても、ン万円でデパートに並ぶシロモノじゃない。あの艶光りした硬い甲羅があって初めて、カブト虫の角やクワガタのあごは輝きを放つことができるのだ。

それじゃあ逆に、アントラーのような生物複合型で人気のある怪獣は?実在する生物ではないけれど、東洋の神獣と西洋のモンスターが融合した"ゴジラの好敵手"キングギドラなら、僕も自信を持って皆さんにおススメ(?)できる。

キングギドラは頭と首が龍で、体がドラゴンという姿をした怪獣だ。小さめの頭は3つあり、それぞれを支える長い首が実にしなやかによく動く。胴体はずっしりと重量感があり、その背中には巨大な翼。ドラゴンの翼はコウモリのようにカギ爪の部分で折れ曲がっているが、キングギドラの場合はまっすぐスッと天空に向かって伸びている。形状はあえて例えれば、シャープになった蝶の羽。片翼だけで体が隠れるくらいの大きな翼を広げた姿には、怪獣王ゴジラさえも凌ぐ圧倒的な存在感があった。

この翼があるおかげで、キングギドラはどの角度から見てもバランスが取れた美しい姿をしている。僕が好きなのは正面からみた姿。3本の首を伸ばし翼を広げれば、全体的に"W"型のバランスが良い構図になる。爆煙の向こうにそういった姿が見えたりすると、嬉しくなってDVDを静止画にしてしまう。実を言うと僕のパソコンには、そんな場面の画像が何枚も保存されているのだ!

もうひとつ、キングギドラの特徴として体色のことに触れないわけにはいかないだろう。その全身は金色のうろこに覆われ、翼までも金色に輝く。下手をすると悪趣味に聞こえるけれど、宇宙から飛来したという設定もあり、あまり不自然な感じがしない。それどころか、地底怪獣の持つ泥臭さとは正反対の、威厳や品格すら醸しだしている。ゴジラが怪獣王なら、僕はキングギドラを怪獣皇帝と呼ぼう。龍はそもそも中国皇帝の象徴だったし、日本では龍神様として祀られている。龍の首を持つキングギドラは、日本映画が生んだ怪獣の中でも別格中の別格なんである。