明けの明星が輝く空に

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第8回:実相寺昭雄の「シルエット」
2010年09月30日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】 「裏磐梯で自転車のヒルクライム大会に出ました。磐梯山周辺は広々として湖もあり、怪獣映画を撮るのにピッタリだろうなと思いました。」
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前回紹介した『狙われた街』で、独特な演出を見せてくれた実相寺昭雄監督。

彼の作品の中で一番印象に残る場面は、やはり以前紹介したエピソードの中にある。怪獣の正体が、実は人間だったという『故郷は地球』だ。

怪獣との戦いの合間、サーチライトをバックに登場人物たちの黒い影が浮かぶ。そこで明かされる怪獣の正体。衝撃的な秘密を明かした人物は科学特捜隊本部からの命令を伝える。すなわち、事実を知られることなく怪獣として葬り去れ、ということだった。

実相寺監督は、なぜ逆光を使ったのだろうか。シルエットでは登場人物たちの表情が見られない。命令を告げた男は、一体どんな顔でそんな命令を伝えたのか。その顔に浮かぶのは、悲しみの表情か、苦悶の表情か。それを視聴者に見せるべきではないか。でも、演技というものは見せることだけが全てではないと思う。見せないことで視聴者の想像をかきたて、より印象的な場面にすることだってできるだろう。

むしろ『故郷は地球』のこの場面では、シルエットにすることによって、秘密裏に怪獣を倒せという科特隊本部、そしてそれを伝える男の冷徹な部分がより強調されているようにも感じる。シルエットの人物には顔がない。つまり無表情と同じだ。組織の一員として、理不尽な任務であろうと黙ってそれを遂行する。そんなニュアンスが視覚的に伝わってくる。そしてさらに言えば、シルエットの黒い影が、冷徹な命令の中にある暗さを際立たせてもいるように思う。

この作品では、ラストシーンにもシルエットが使われている。怪獣として倒された男のための墓標。その前に立つ隊員たち。彼らの中の1人がアップになる。いつもは3枚目的なキャラクターでコミカルな一面を見せる隊員だが、この時ばかりは違った。悲しさ、やり切れなさ、怒りといったものが混ぜ合わさった表情を浮かべている。そして他の隊員たちが立ち去った後も、1人そこを動かない。最後のカット。夕日を背にした彼の姿は、シルエットで浮かんでいた。


この隊員の顔は見えないけれど、見ている側の頭の中で彼は無表情ではない。直前に見た表情が頭に残っているからだ。それを思い浮かべながらシルエットを見る。仲間達が呼ぶ声だけが聞こえるという音の演出も手伝って、実に印象に残る場面だ。