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第16回:身震いするゴジラ
2011年04月28日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】原発の風評被害で閑古鳥が鳴く草津で、自転車のヒルクライム大会があった。参加したのは2000人以上。参加者の1人として、少しでも草津町の助けになれば嬉しい。
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バルタン星人の物マネほど楽なものはない。両手をチョキにしてフォフォフォと声を出す。それだけ。誰でも皆、あっという間にバルタン星人になれる。この時、顔の高さにある手は笑い声に合わせて上下に動いているはずだ。もちろん、地球人だったらこんな笑い方は絶対にしない。でも逆に言えば、それがバルタン星人の個性だろう。そしてそれは、着ぐるみの中の役者が動くことで初めて生まれてくる。

怪獣や宇宙人が、どんなにすばらしいデザインを元に精緻な造形がなされたとしても、人が入っていない着ぐるみは"物"でしかない。役者が入って演技することにより、着ぐるみには命が吹き込まれる。

ゴジラのスーツアクターとして知られる中島春雄氏は、動物園に通って動物達の動きを研究したそうだ。その努力の賜物だろう。『モスラ対ゴジラ』でのゴジラ登場シーンは、本物の生き物のようだとして映画館の観客を驚かせたという。その場面、地中から姿を現したゴジラが、体を震わせて背中の土を振るい落とす。時間にして2、3秒。特に斬新な動きではない。最近になってDVDで見直した僕の正直な感想は、「これだけ?」だった。身震いさせて土を振るい落とすなんて、怪獣だったら当たり前だろうと思えたのだ。

ただ『モスラ対ゴジラ』の公開は1964年。このあともゴジラシリーズは続々と作られた。『ウルトラマン』は1966年の放映開始だ。つまりスクリーンやブラウン管に登場した怪獣は、ほとんどが"モスゴジ"の後輩ということになる。みんなこの偉大な先輩の影響を受けなかったはずはない。"モスゴジの身震い"を継承する怪獣は、きっとたくさんいたろう。僕が『モスラ対ゴジラ』で驚かなかったのは、当然と言えば当然のことだった。

それでも、同じ中島氏が演じるガボラという怪獣の動きには目を見張った。『ウルトラマン』に登場した四足歩行の怪獣だが、本当に生き物を見ているようなのだ。例えば、突如ウルトラマンが目の前に現れた時の身構え方。前足をバタつかせ上体を上下させる動きに、怪獣の驚きと警戒心が見事に表現されていたし、今にも跳びかかろうとする力のタメも感じられた。それはもはや"人が入って動いている着ぐるみ"ではなく、命を持った生き物だった。これを見た時のインパクトが強かったためだろうか。格闘シーンでガボラが大きく口を開けた頭を振り回すと、ウルトラマンが噛み付かれやしないかと思わずハラハラさせられてしまった。

中島氏は、最初から怪獣の着ぐるみの中に入る役者を目指していたわけではない。顔を出せない仕事は、さぞかし不本意だったのではないだろうか。でもそんな中で、自分に与えられた役割をこなそうとベストを尽くした。これぞプロフェッショナリズム!その意識の高さには、敬意を払わずにはいられない。