明けの明星が輝く空に

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第9回:角を授かりし者
2010年10月14日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】 トレイルランニングの大会帰りに寄った北原ミュージアム(河口湖)。「昭和のキャラクター大集合!」と銘打たれ、特別展示コーナーに特撮ヒーローや怪獣が大集合していた。
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僕が小学生の頃、子供達はみな怪獣の絵をよく描いた。テレビで見たものではなく、オリジナルの怪獣も多かった。そしてそんな怪獣達には、たいてい「角」があったものだ。

なぜか人は角を持つモノに惹かれる。例えばカブト虫。子供たちが好きなのは、オスであってメスじゃない。違いはもちろん、あの立派な角の有無だ。

角に惹かれるのは、それが「力」や「強さ」の象徴だからだろう。動物でも虫でも角があるものは強そうだ。それは怪獣でも同じで、例えば初代ウルトラマンを一度は屈服させたゴモラ。側頭部からカーブを描き天に向かうその角は、正面から見ると三日月のようなシルエットをしていて、その圧倒的な存在感によってゴモラは見るからに強そうだった。

そのゴモラをデザインした成田亨氏は、黒田長政(戦国時代の武将)の兜への思いをそこに込めたそうだ。"黒田の水牛兜"が持つ、実戦には不向きなほど長い角。その形態は呼び名の通り牛の角に近く、ゴモラのものとは遠く隔たりがあるけれど、雄々しさという点では共通するものがある。

ところで戦国時代と言えば、さまざまな形態の"変わり兜"と呼ばれるものが多く出現した。剣のような飾りが、後頭部から何本も放射状に伸びる秀吉の兜。細く長い弓状の弦月が、金色に光る伊達政宗の兜。他にもムカデや蝶、ウサギの耳、ゾウの鼻(!)などをモチーフにした飾り("前立"や"脇立"などと呼ばれる)を兜に装着し、武将達は個性を競っていた。

"変わり兜"でわかるように、角(または角状のもの)は他者との違いを演出しやすい。僕らは怪獣の絵を描く時に角を加えたが、そうすれば友達の怪獣との違いが出しやすい。今振り返ると、そんな理由もあったように思う。

それでも子供が考える角のデザインには限界がある。せいぜい本数や向きを変えるぐらいだ。しかし、そこはさすがにプロ。前出の成田氏は『ウルトラセブン』の中に、誰も考えつかないような角を登場させた。

その角を持つ怪獣の名はエレキング。基本的にはY字型で、二股に分かれた先が弧を描く2本の角。それがなんと根元から回転するのだ!つまり見ていると、常にシルエットが変化することになる。また生えているのが頭ではなく、顔の中の目がありそうな位置だということも大きな特徴だ。それでは目はどこに?実はどこにも無い。だけどエレキングは目が見えない設定ではないし、目がないことを不自然に感じさせることもない。成田氏の発想と、それを形に変えるデザインのセンス。これはもう、恐れ入りました、と言うしかない。