第34回:"セブン上司"再評価の時
2012年10月25日
【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。【最近の私】最近フランス語を、数字やアルファベットから勉強し始めた。ウルトラセブンはウルトラ"セット"。仮面ライダーV3はライダー"ヴェトロワ"。こうでもしないと頭に入らない・・・。
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"アニキ"と呼ばれて親しまれた、阪神タイガースの金本選手が引退した。タイガースファンにとっては実に頼れる選手だったが、歴代ウルトラマンの中にも頼れる"アニキ"がいる。それがウルトラ兄弟の長兄、ゾフィーだ。
ゾフィーはウルトラ戦士で構成される宇宙警備隊の隊長でもあり、ウルトラ兄弟の中で最強の光線技を使うとされている。そんな実力者でありながら、実は番組の主役を張ったことはない。もともとは、『ウルトラマン』の最終回にだけ登場した、何の肩書きもないサブキャラだったのだ。
そんなゾフィーが再びブラウン管に姿を見せたのは、『ウルトラマン』から数えてシリーズ4作目、『ウルトラマンA』でのことだった。「宇宙警備隊隊長にしてウルトラ兄弟の長兄」という設定が与えられたのはこのときだ。たとえ自身の名前が付いたシリーズがなくても、こんなに華々しい肩書きを持つウルトラ戦士に人気が集まらないはずがない。こうしてゾフィーはウルトラ戦士の中で確固たる地位を手にし、今では円谷プロダクションの公式サイトでも堂々と紹介されるほか、ウルトラシリーズで一番新しい映画『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国』にも登場するほどになっている。
しかし、キャラクターの中には、ゾフィーのように端役から大出世を果たした者がいる一方、ウルトラマン史の中に埋没してしまった不運なキャラもいる。シリーズ2作目『ウルトラセブン』の"セブン上司"だ。彼は『セブン』最終話のみに登場するが、ゾフィーとは違い、その後2度と姿を見せることはなかった。そして今や、その存在すら忘れ去られてしまっている。
扱いに大きな差がある両者だが、2人には明確な違いがあった。まず、セブン上司には本当の名前がない。"セブン上司"という呼び名ですら、劇中で使われたものではなく、雑誌か何かで便宜的につけられたものだ。これでは記憶には残りにくい。逆にゾフィーの場合は、劇中でウルトラマンがその名前を呼ぶ。エコーが強くかかっているため「ゾフィ、ゾフィ、ゾフィ...」とリフレインして聞こえるのだが、これが子どもたちに大いに受けた。ゾフィー登場の場面を真似するとき、皆こぞって「ぞふぃ、ぞふぃ」とやったものだ。
また主人公のピンチに現れるという登場の仕方は共通しているものの、その役割において両者の違いは際立っている。ゾフィーは絶命したウルトラマンに新たな命を授けるため、地球にやってきた。このときウルトラマンは、「自分はこのまま生き返れなくてもいいから、彼が乗り移っていた地球人のハヤタを助けてくれ」と頼む。ゾフィーはその強い気持に打たれ、持ってきた命をハヤタにも与える。そんな彼には救世主の頼もしさだけでなく、まるで菩薩のような優しささえ感じるではないか。
一方のセブン上司は、体調を悪化させ苦しむダン(=セブン)の枕元に現れ、「これ以上戦えば死んでしまうぞ。2度と変身は許さん」と告げるだけ。そして、そのまま消えてしまうのだ。彼のそんな様子は、見る人にとって冷酷なようにも感じられる。「ゾフィーは命をくれたんだから、あなたも特効薬ぐらいくれないの?」と突っ込まれてもしかたないだろう。もちろんセブンは、彼の言葉に従うはずがない。自分が戦わなければ、地球が侵略されてしまうからだ。子どもたちにだって、それはわかる。だから、セブン上司はコドモだった僕らの目にはなんとも冷たい奴にしか映らなかった。
しかし、である。助けてもらえなかったことによって、セブン最後の戦いには、より強い悲壮感が漂うことになった。苦しみながらも地球のために戦うセブン。僕らは彼を必死で応援した。そして戦いが終わり、ひとつの光となって宇宙へ帰っていったセブンのことが、忘れられない想い出として心に残ったのだ。(この原稿を書いている今も、そのシーンを思い出すと涙腺が・・・)そう考えると、セブン上司は隠れたMVPだったのではないだろうか。冷酷なんて言ったらバチが当たる。
やはりセブン上司を評価してこそ、真のセブンファンを名乗れるというものだ。金本選手の引退をきっかけに、そんなことに気づいた今日この頃である。