明けの明星が輝く空に

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第41回:怪獣たちの目線に立てば
2013年05月30日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】6月いっぱい有効の、銭湯回数券がたくさん残っている。これからの1カ月、銭湯巡りをして使いきらないと。
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怪獣は、決して邪悪な存在ではない。人間とは相容れない存在というだけのことだ。それでミサイルを打ち込まれたりするのだから、彼らにすればたまったものではない。『ウルトラマン』の第30話「幻の雪山」では、怪獣退治を専門とする科学特捜隊に対し、ある少女から「なんでもかんでも怪獣呼ばわりして殺してしまう、恐ろしい人たちだわ」というセリフが投げつけられた。

考えてみれば怪獣は、山の中で出くわすクマや、人里に現れ畑を荒らすイノシシのようなものだ。たまたま人間と接点を持ったばかりに、迷惑がられ駆除の対象とされてしまう野生動物たち。クマやイノシシから見れば、火を噴く武器を持った人間の方こそ、恐ろしい存在だろう。

毎週のように、怪獣を退治していた科特隊とウルトラマン。制作した円谷プロダクションのスタッフには、番組が"怪獣いじめ"や"殺戮ショー"になっていないか、心配する声があったそうだ。「幻の雪山」でのセリフは、作り手である自分たちに向けられたものだったのかもしれない。

実は『ウルトラマン』には、怪獣を殺さないで終わった話もいくつかある。たとえば第20話「恐怖のルート87」では、走行中の車を破壊していた怪獣ヒドラに対し、ウルトラマンはスペシウム光線の発射をやめ、飛び去っていくのを見送る。ヒドラの背中に、ひき逃げ事故により亡くなった少年の姿が見えたからだった。第34話「空の贈り物」では、空から落ちてきた怪獣スカイドンを、ウルトラマンと科特隊が協力し宇宙に送り返してやる。このエピソードには、最初から最後まで"怪獣を退治せよ"という話は出てこない。いかにしてスカイドンを宇宙へ送り返すか、といった話に終始する。

『ウルトラマン』は子ども番組であるから、"怪獣いじめ"にしてはいけないという配慮が出てきても不思議ではない。ただ僕はそれ以上に、作り手には怪獣に対する愛情があったように感じる。ウルトラマンに登場する怪獣は町を破壊しても、視聴者に憎まれるような描かれ方はされていなかった。その暴れまわる姿は畏怖の念を抱かせるとともに、勇壮で雄々しいとさえ感じさせた(だからこそ彼らは、あれだけ子どもたちの人気者となったのだ)。しかし結果として、怪獣はウルトラマンによって退治される。直前まで力を誇示し、生命力にみなぎっていた生物が地面に崩れ落ち動かなくなってしまった姿には、もの悲しい雰囲気さえ漂っていた。

毎週そういった場面を撮影していく中で、制作現場にも怪獣たちをかわいそうだと感じる空気が出てきたのかもしれない。『ウルトラマン』の第35話「怪獣墓場」では、劇中で怪獣たちの供養が行われている。物語の冒頭、ウルトラマンに葬り去られてきた怪獣たちが、亡霊となってさまよう宇宙空間が発見される。そこですぐさま、科特隊本部で僧侶を呼んでの供養が行われたのだ。

このエピソードでは、主人公のハヤタ(ウルトラマン)が心の中で、「許してくれ。地球の平和のため、やむなくお前たちと戦ったのだ。」と、戦ってきた怪獣たちに語りかける場面がある。普段あまり感情を見せたことのないハヤタには、珍しいシーンだ。それだけに、この言葉はグッと胸に迫るものがあるが、制作スタッフの心情も代弁していたのではないだろうか。

『ウルトラマン』は、ヒーローの強さやカッコよさを描いただけではなかった。「怪獣墓場」や「幻の雪山」は、悪者とされた怪獣たちの目線に立つことを教えてくれている。特撮ヒーロー番組のパイオニアとして、『ウルトラマン』の功績は多大なものがあるが、その価値はこんなところにもあると言っていいだろう。そして、それを見て育った僕たちは、非常に幸運だったと思うのである。