第43回:顔の変わるヒーローと怪獣
2013年08月02日
【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。【最近の私】巨大ロボットが怪獣を退治するハリウッド映画が公開される。怪獣はCMで見る限りでは面白みのないデザイン。いかに初期のウルトラ怪獣が、独創性に富んでいたかが分かる。
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子どものころ読んでいた漫画に『750ライダー』がある。ちょっとハードな学園ものだったけれど、いつのまにかラブコメに路線変更。登場人物たちも能天気な顔に変わってしまい、ガッカリした記憶がある。
特撮モノでも、顔が変わるのは珍しくない。たとえば有名なのがウルトラマン。実はウルトラマンは撮影の使用順に、Aタイプ、Bタイプ、Cタイプと呼ばれる3種類のマスクが存在する。Aタイプは、つり目がちな印象で、口の周りにしわが寄っている。このしわは、口が開閉式になっていたためで、デザイン的に意図されたものではない。また、他の部位も材質の関係上微妙にデコボコしていた。Bタイプはそのあたりが改善され、つるんとした卵のような美肌になった。Aタイプと同じ型から製作されたので、顔の形自体は変わらないはずだけれど、マスク表面の質感のせいか、ずっと端正な顔立ちになったように感じる。そして最後のCタイプだが、これはBタイプとよく似ている。ちょっと見ただけでは区別できない。あらためて画像を並べてみると、口幅が少し広がり、目と口の距離が少し狭まって見える。また顔全体がやや丸みを増したようで、細面だったAタイプに比べると、優しい感じがするウルトラマンだ。
日本特撮界を代表する怪獣も、顔が変化している。ガメラの顔は昭和シリーズでは明確な変化はないが、平成三部作では大きく異なる。まず第1作目『ガメラ 大怪獣空中決戦』では目がくりっと大きく、頭部も丸みを帯びていて、怪獣とは思えないほど愛嬌があった。そのままキャラクター商品にしてもいいぐらいだ。それが第2作『ガメラ2 レギオン襲来』になるとシャープな顔立ちとなり、さらに第3作『ガメラ3 邪神覚醒』では凶悪な面構えに。一番の特徴は目だ。小さくとも鋭い光を放つ目。"アブナイ奴"といった雰囲気さえ漂わせている。頭の真ん中や目の上に並ぶギザギザとあいまって、実に好戦的な印象だ。ガメラは人類の味方ではあるけれど、あんな巨大な怪獣が街中で戦えば、どうしても物的・人的被害が出る。要するに、その点においてはガメラも十分人間の脅威だ。『ガメラ3~』はそこの部分をきっちり描いているが、ガメラもそれにふさわしいビジュアルを与えられたということなのだろう。
一方ゴジラは、昭和シリーズのころから、いろいろな顔が存在した。3作目『キングコング対ゴジラ』の"キンゴジ"や、4作目『モスラ対ゴジラ』の"モスゴジ" は、ファンの間で人気が高い。前者は目から鼻先までの距離が長く、横顔がイケメンだ。後者は眉の部分や頬が厚ぼったく、顔を腫らしたボクサーのような印象。それだけに、得もいえぬ凄みを漂わせている。
しかし昭和シリーズも後半になると、ゴジラは顔全体が丸くなり目も大きくなって、愛らしささえ感じさせるものに変わった。たとえて言うなら、シェパードやブルドッグから、ポメラニアンに変わったというぐらいの変化だ。それには理由がある。当時ゴジラは、当初のような人類の脅威ではなく、地球を守ってくれる正義のヒーローに変わっていたのだ。またゴジラ映画は、親子で楽しめるファミリー路線に舵を切っていた。この日本の怪獣王には、恐さよりも親しみやすさが求められたのだろう。
それが9年のブランクを経て、シリーズ第16作『ゴジラ』で再び映画館に帰ってきたときには、グッと相手を睨みつける悪役顔になっていた。再び人類の脅威として描かれることになったゴジラは、最終作である第28作『ゴジラ FINAL WARS』まで、一貫して睨みを利かせた顔だ。第26作の『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』にいたっては、凶暴性を強調するため、瞳のない白目のゴジラも登場している。
異なった顔のゴジラが多数存在するのは、それだけシリーズが長いにほかならない。シリーズが長いということはつまり、人気が続いたということでもある。第28作をもってゴジラシリーズは終了とされているが、きっといつかスクリーンに帰ってくるだろう。そのとき日本が誇る怪獣王は、どんな顔になっているのだろうか。楽しみに待つことにしよう。