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最新SF映画2本を斬る!『第9地区』&『月に囚われた男』
2011年01月26日

最新SF映画2本を斬る!
『第9地区』&『月に囚われた男』
製作費よりもアイデアが大事だと実感!

2010年4月、日本人宇宙飛行士を含む7人を乗せたスペースシャトル・ディスカバリーが宇宙に向けて飛び立った――。

「宇宙」を題材とした小説や漫画、映画は枚挙にいとまがない。未知の世界である宇宙への想像力をかきたてられるからであろう。僕が最初に映画館で観た洋画は『スター・ウォーズ』(1977年)である。『スター・ウォーズ』を観て宇宙に明るい夢を抱いたのだが、その後『エイリアン』(1979年)に出会うと宇宙の闇とそこに潜む恐怖に背筋が凍った。今回の2本はどうだろう。

まずは『第9地区』。宇宙から飛来したエイリアンが、地球のあるエリアで難民として暮らしているという物語だ。製作総指揮は『ロード・オブ・ザ・リング』(2001年)を監督したピーター・ジャクソン。そして監督は本作がデビュー作となるニール・ブロムカンプである。

予告編は、『インディペンデンス・デイ』(1996年)に登場したような巨大な宇宙船にヘリコプターが近づいていく場面から始まる。この宇宙船は南アフリカのヨハネスブルグ上空から動かない。エイリアンたちは難民として地球で暮らしているのだ。

ドキュメンタリー風のカメラワークが「宇宙船を直して早く出て行け!」「やつらの武器はすごいんだ!」と訴える地元の少年たちを映し出す一方、尋問室のような部屋に連れ込まれたらしきあるエイリアンは、こう告げる。

「家に帰りたい」

「第9地区」とは、ヨハネスブルグに作られたエイリアン居住地区の名前である。やがて、政府はエイリアンを第9地区から別の場所に強制的に移住させようとする。その計画の担当者に選ばれたのがヴィカスという男だ。ところが、ある出来事をきっかけにヴィカスはエイリアンたちとの絆を深めることになる。エイリアンが地球に来た真の目的を知ったのだ。エイリアンにヴィカスがこう叫ぶ。

「生き抜くんだ!」

テーマはエイリアンと人間の共存だ。同様のテーマの作品には『エイリアン・ネイション』(1988年)がある。エイリアンたちがロスアンゼルスで暮らす近未来、人間とエイリアンの刑事がコンビを組んで捜査に挑む。『エイリアン・ネイション』の脚本をノンクレジットでリライトしたのは『アバター』(2009年)のジェームズ・キャメロン監督である。プロデューサーを務めたのが当時のキャメロンの妻、ゲイル・アン・ハードだったため、おそらく一肌脱いだのだろう。

また、『ヒドゥン』(1987年)もエイリアンと人間の絆を描いた作品だ。地球に逃げてきた凶悪なエイリアンを追う正義のエイリアンが、ロス市警の刑事と友情を深め、悪のエイリアンと戦う。

『第9地区』は、監督は新人だし出演しているのは馴染みのない俳優ばかり。しかも、製作費は高騰が続くハリウッドにおいては比較的低予算の3000万ドル(約30億円)。にもかかわらずアメリカで公開されるやいなや大ヒットを記録し、アカデミー賞作品賞にもノミネートされた。なぜか?

南アフリカ出身のブロムカンプ監督は、自身が目にした人種隔離政策(アパルトヘイト)の醜さと愚かさをこの映画で描こうとしたのだ。人種差別問題をSFで描く――映画は金をつぎ込めばいいというわけではないという、象徴のような作品である。
やっぱり、アイデアだなぁ。


2本目は『月に囚われた男』。こちらは逆に、地球から宇宙に飛び立った男の物語だ。

予告編は「近未来の地球ではエネルギーが底をつき、新たな燃料源を月で採掘している。その作業を行うため、1人の男が派遣された」というテロップで始まる。

月に派遣された男、サム・ベルを演じるのはサム・ロックウェルである。サム・ロックウェルは以前にも『ギャラクシー・クエスト』(1999年/僕のお気に入りの1本です!)や、『銀河ヒッチハイクガイド』(2005年)などのSF映画に出演している。

サムが月に派遣される3年間、話し相手はコンピューターのガーティだけ。ガーティは『2001年宇宙の旅』(1968年)に登場し、当時世界の度肝を抜いたコンピューター、HALを想像させる。ガーティの声は『ユージュアル・サスペクツ』(1995年)でアカデミー助演男優賞を受賞した名優、ケヴィン・スペイシーが担当している。

月での派遣期間が残り2週間となった日、サムは月で他にいるはずのない人間を発見する。

その男はサムにそっくりだった。このミッションは、何かおかしい・・・

サムはガーディに「この男は誰だ!」と問うが、答えは「あなたの妄想です」。
予告編はサムのこのセリフで終わった。

「家に帰りたい」

『月に囚われた男』の監督ダンカン・ジョーンズは、あの伝説のアーティスト、デヴィッド・ボウイの息子だ。ここでクイズ。ダンカン・ジョーンズ監督の父、デヴィッド・ボウイが坂本龍一、ビートたけしと共演した映画は何でしょう?(答えは下段に)

初監督作品ながら各国で数々の賞を獲得している。製作費は500万ドル(約4億6000万円)と超低予算。なのに、なぜサム・ロックウェルやケヴィン・スペイシーをキャスティングできたのか? 
宇宙で独り暮らす男のサムに自分そっくりの男が出現したら?
なぜそんなことが起きるのか?
2人の俳優はこの作品の着眼点と脚本の完成度にほれ込んで出演を受けたそうだ。
この映画でもやっぱりアイデアがものをいったわけだ。

今回紹介した2本の予告編には、どちらも新人監督の作品、どちらもお金ではなくアイデアで観客を唸らせているという共通点がある。加えて、予告編からもわかるように、鍵となるセリフはどちらも「家に帰りたい」だ。かたや地球に取り残されたエイリアンのセリフであり、もう一方は宇宙でひとりぼっちにされた人間のセリフである点も面白い。

ド派手なCGや豪華な(だけの?)キャスティングに膨大な予算をつぎこんだ映画にはない、独創性に富んだ世界。この2本の映画を観て、宇宙への思いを馳せよ!

答え:『戦場のメリークリスマス』(1983年)。この作品で坂本龍一は音楽も担当している。プロデューサーのジェレミー・トーマスは『ラストエンペラー』(1987年)でも坂本に音楽を依頼。坂本はデヴィッド・バーン、スー・ソンと共にアカデミー賞の作曲賞を受賞した。



今回注目した予告編
『第9地区』と『月に囚われた男』



★『第9地区』
監督:ニール・ブロムカンプ
脚本:ニール・ブロムカンプ、テリー・タッチェル
出演:シャールト・コプリー、デヴィッド・ジェームズ
製作国:アメリカ/ニュージーランド
4月10日より公開中
公式サイト:http://d-9.gaga.ne.jp/#
★『月に囚われた男』
監督・原案:ダンカン・ジョーンズ
脚本:ネイサン・パーカー
出演:サム・ロックウェル、ケヴィン・スペイシー
製作国:イギリス
4月10日より公開中
公式サイト:http://www.moon-otoko.jp/site/