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アカデミー賞ノミネート作品2本の予告編!『ハート・ロッカー』&『マイレージ、マイライフ』
2011年01月26日

アカデミー賞ノミネート作品2本の予告編!

『ハート・ロッカー』&『マイレージ、マイライフ』

サスペンスとヒューマンドラマ、はたして受賞のゆくえは? 

秋から年明けにかけて日本で公開されるハリウッド映画の中には"アカデミー賞 有力候補"と宣伝されるものがある。受賞すれば興行面において大きなプラスになるからだろう。2月2日、アカデミー賞のノミネート作品が発表された。今年最大の話題は、『タイタニック』(1997年)がもつ全世界興行収入記録を抜いたジェームズ・キャメロン監督作品『アバター』(2009年)が、9部門でノミネートされたことだ。
『タイタニック』もキャメロン監督の作品で、1998年のアカデミー賞では11部門に輝いた。授賞式でキャメロンが『タイタニック』のセリフを引用して「アイアム・ザ・キング・オブ・ザ・ワールド(僕は世界の王様だ)!」と叫んだのは有名な話。今回は、2月以降日本公開作品で、アカデミー賞にノミネートされている2本の予告編を紹介したい。
 
まず1本目は、女性監督キャスリン・ビグローの『ハート・ロッカー』だ。『ホリデイ』(2006年)のナンシー・マイヤーズや『ジュリー&ジュリア』(2009年)のノーラ・エフロンなど、今では女流監督はそう珍しくはない。しかしキャスリン・ビグローはバンパイアホラー『ニア・ダーク/月夜の出来事』(1987年)や日本でも話題となった『ブルー・スチール』(1990年)、ハリソン・フォードとリーアム・ニーソン出演の潜水艦パニック『K-19』(2002年)など、ハリウッドでもかなりタフなアクションやサスペンス映画を撮り続けているつわものだ。他の女性監督と比べると異質の存在だと言えるだろう。
ちなみにキャスリン・ビグローは先に述べたジェームズ・キャメロン監督と結婚していた(89年に結婚、91年に離婚)。ビグローが監督したヒット作『ハートブルー』(1991年)ではキャメロンが製作総指揮を務め、『ストレンジ・デイズ/1999年12月31日』(1995年)でも彼が製作、原案、脚本を担当していた。今年のアカデミー賞ではキャメロンとビグローの"元夫婦の賞争い"にも注目したい。

『ハート・ロッカー』はある日本の配給会社が購入し、既に公開されているべき作品だったが、その会社が倒産したために日本では公開未定のままになっていた。一時はお蔵入りかと思われていたので嬉しいかぎりである。

予告編は「主要映画賞75冠達成。本年度アカデミー賞最有力候補」というナレーションで始まった。今年のアカデミー賞で『ハート・ロッカー』は『アバター』と並ぶ最多の9部門でノミネートされているから大げさではない。
防護服を着たアメリカ兵士が爆弾に近づいていく・・・。そして起こる爆発。
この場面で防護服を着ている兵士は『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)のガイ・ピアースである。他にもレイフ・ファインズやデヴィッド・モースといったお気に入りの役者も出演しているが、残念ながら予告編には登場しない。

2004年のバクダッド。アメリカ軍の爆弾処理班に、873個の爆弾を処理した経験を持つジェームズ二等兵(ジェレミー・レナー)が赴任してくる。さっそく爆弾処理の任務を開始するジェームズ。複数の爆弾に囲まれて思わずつぶやく。

「すげえ」

大型ライフルやスローモーションで落ちる薬きょう。『ブルー・スチール』のオープニングは38口径リボルバーのアップから始まり、クールで重厚な世界観を表現していたが、本作でも銃器に対するビグロー監督のこだわりがうかがえる。

爆弾処理兵たちの過酷な現場と緊迫感が伝わってくる。「いつか死ぬ。俺だって」と怯える兵士に向かってジェームズが言う。

「皆、何かが怖い。そうだろ?」

ビグロー監督の作品は、どれも危険と紙一重の男たちの物語だ。『ハートブルー』はキアヌ・リーブス扮する刑事が銀行強盗グループを逮捕するために潜入捜査を試みるというストーリーだった。『K-19』はロシアの潜水艦内で起こった放射能漏れを防ごうとする兵士たちの、命をかけた勇姿を描ききっていた。
タイトルの『ハート・ロッカー』の原題は『Hurt Locker』。「ハート」は「心」(Heart)ではない。「痛み(Hurt)に閉じ込められた(Locker)状態」という意味だろう。最近は原題のままのタイトルで公開される作品が多い。しかし、本来の意味がそのままカタカナで伝わるかというとそうでもない。まずは原題の意味についてじっくり考えることをお薦めしたい。作品の世界観をより深く、正確に知ることができるからだ。

『アバター』では"3D映像革命"による臨場感が話題になっているが、『ハート・ロッカー』はリアルな戦闘、つまり肉体的、心理的な"痛み"を描ききることで、観客に3Dとは異なる臨場感を与える作品だ。予告編だけを観ても、それが伝わってくる。
 
2本目は作品賞、監督賞をはじめ6部門にノミネートされている『マイレージ、マイライフ』。監督は『サンキュー・スモーキング』(2006年)で注目され、『JUNO/ジュノ』(2007年)で2007年アカデミー賞監督賞部門にノミネートされたジェイソン・ライトマンである。ちなみに彼の父親は『ゴーストバスターズ』(1984年)などを監督したあのアイヴァン・ライトマンであり、本作では製作を務めている。
元夫婦やら親子やら、ハリウッドは意外に狭い世界である。

予告編はこちらも「本年度アカデミー賞作品賞 有力候補だ」と煽るテロップで始まった。
「主人公のライアン(ジョージ・クルーニー)は1年のうち322日を出張し、その飛行距離は月よりも遠い35万マイル」とナレーションが流れる。ライアンの仕事はリストラ宣告人。容赦なくリストラを実行していく。予告編には『JUNO/ジュノ』に出演していたJ・K・シモンズ、それから偶然だろうが監督と名前が似ているジェイソン・ベイトマンが登場する。

新人女性スタッフ、ナタリーの実地研修としてライアンは彼女と一緒に旅に出ることになった。
ライアン:「空港の税関ではシニアの後ろには並ぶな。時間がかかる。
      並ぶならアジア系の後ろに並べ。荷物が少なくムダがない」

ナタリー:「それって人種差別ですよ」

欧米の映画にはつきもののシーンだが、ちょっと複雑な心境になる。

「何のためにマイルを?」と聞かれたライアンは「ポイントを貯めるためだ」と答える。さて、マイレージといえば、『パンチドランク・ラブ』(2002年)でアダム・サンドラー扮する主人公がプリンを大量に買ってマイルを貯め、愛する女性に会いにハワイに行こうとするシーンが頭から離れない。

『マイレージ、マイライフ』は作家ウォルター・カーンの小説が元になっている。したがってノミネートの1つは脚本ではなく脚色賞だ。ウォルター・カーン作品では、他にも『サムサッカー』(2005年)が映画化されている。『マイレージ、マイライフ』の予告編を見ると、人を会社から切り捨てる職業のライアンが、やがて人間同士の繋がりが大切だと思うようになるまでのヒューマンドラマと想像できる。何だかありがちなストーリーだと思えなくもないが、ライトマンは女子高生の妊娠から始まる、今までにありそうでなかった青春ラブストーリー『JUNO/ジュノ』を撮った監督だ。本作もいい意味で予想を裏切る展開になることを期待しよう。

『マイレージ、マイライフ』のタイトルについても触れておきたい。原題は『Up in the Air』である。おかしな邦題をつけて公開される映画もあるが、もし原題のまま「アップ・イン・ザ・エアー」だったら、皆さんはどんな映画を想像するだろう?何十万マイルも旅をしてきた男が自分の人生を振り返る物語という内容を考えれば、これは上手い邦題だと思う。
さて、ここで問題。『カールじいさんの空飛ぶ家』の原題は? ヒントは、なんと単語1つ、しかもアルファベット2文字です。 ※答えは最下段に記載

NY批評家協会賞とLA批評家協会賞では、『ハート・ロッカー』がすでに作品賞、監督賞を受賞しているが、アカデミー賞の前哨戦となるゴールデン・グローブ賞では『アバター』が同賞を獲得している。
3月7日のアカデミー賞授賞式ではキャメロンが再び「キング・オブ・ザ・ワールド!」と叫ぶのだろうか? それとも元妻のビグローが女性初の監督賞に輝くか? はたまた大穴のジェイソン・ライトマンか? どうしても劇場に足を運べない人は、予告編だけで予想を立てるのも楽しいかもしれない。



今回注目した予告編
『ハート・ロッカー』と『マイレージ、マイライフ』



★『ハート・ロッカー』
監督:キャスリン・ビグロー
脚本:マーク・ボール
出演:ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、レイフ・ファインズ、
   デヴィッド・モース、ガイ・ピアース
制作国:アメリカ
2010年3月6日より公開
公式サイト:http://hurtlocker.jp/#home


★『マイレージ、マイライフ』

監督・製作:ジェイソン・ライトマン
脚本:ジェイソン・ライトマン、シェルダン・ターナー
出演:ジョージ・クルーニー、ジェイソン・ベイトマン、
   ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリック
制作国:アメリカ
2010年3月10日より公開
公式サイト:http://www.mile-life.jp/#home





『カールじいさんの空飛ぶ家』の原題は『Up』。
原題のままの「アップ」より『カールじいさんの空飛ぶ家』の方が内容が伝わりますよね。