【悪役を語るコラム】悪役を演じてアカデミー賞を獲得
デンゼル・ワシントンin『トレーニング デイ』
2012年12月07日
【written by 鈴木純一(すずき・じゅんいち)】映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。【最近の私】最近ハマっている海外ドラマは『SMASH』。ブロードウェイのミュージカル製作に携わる人間たちの物語は目が離せません。歌とダンスも◎。
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デンゼル・ワシントンは知的な正義の人物を演じることが多い。『フィラデルフィア』ではエイズを理由に不当解雇された主人公を守る弁護士、また『クリムゾンタイド』では核戦争を防ごうとする原子力潜水艦の副艦長という役柄だった。そのデンゼルがアカデミー賞で最優秀主演男優賞を受賞したのが、2001年の映画『トレーニング デイ』。しかしこの作品で彼が演じたのは、今までのイメージとは異なる悪役だった。
ロサンゼルス市警の麻薬取締課に配属された新人刑事のジェイク(イーサン・ホーク)は、ベテラン刑事アロンゾ(デンゼル・ワシントン)と組んで実地訓練に参加する。ところがこのアロンゾは悪の道に堕ちた刑事。ジェイクにとっては、地獄巡りとなるトレーニングが始まる。
デンゼル演じるアロンゾは黒ずくめの服装で、眼光が鋭く、巧みな話術で相手を威圧する。常に拳銃を2丁持ち歩き、レストランでも路上でもそれを見せつけるのだ。そんなアロンゾの外見や言動は、刑事というよりギャング。しかし、これは犯罪者に近づいて逮捕するためにそう装っているだけで、中身は間違いなく刑事のはずだった。
ある日、アロンゾは若者からマリファナを押収。ところが、あろうことかそれをジェイクに吸わせようとするのだ!拒むジェイクにアロンゾは、「潜入捜査でドラッグを断ればどうなる?断ればサツだとバレて殺されるんだぞ!」と恫喝。ほかにも彼はビールを飲んで車を運転したり、偽物の捜査令状で容疑者の家宅捜査をした挙句、その家に隠されていた現金を盗んだりと、刑事とは思えない行動ばかりをする。
アロンゾの信条は「犯罪者は狼で、市民は羊だ。狼から羊を守るには、自分も狼にならなければならない」だった。しかし、アロンゾは「正義の狼」になろうとして、「悪の狼」になってしまう。一方、イーサンが演じるジェイクは、犯罪を許さない正義感の強い男。アロンゾもかつてはジェイクのような刑事だったが、いつの間にか「警察バッジを持つ悪魔」となってしまったのだった。
『トレーニング デイ』以前のデンゼルは善良なキャラクターが多かったが、本作では「俺だって汚れた役も出来るんだぜ」と、嬉々として演じている。この映画の主人公はイーサン・ホークだが、デンゼルは主役を食う演技を見せており、主演男優賞の受賞も納得だ(ちなみにイーサンは助演男優賞にノミネートされた)。その後、デンゼルは『アメリカン・ギャングスター』で実在したギャングのボスを熱演。また今年公開された『デンジャラス・ラン』でも、元CIAだが現在は犯罪者というキャラに扮しており、普段の「正義の味方」と時々「悪いヤツ」をうまく演じ分けている。正義の人の印象が強いデンゼルだが、そんな彼だからこそ悪者を演じると怖さが引き立つ。悪党ウォッチャーにとっては、注目の俳優だ。