第27回:奇遇
2012年05月11日
【written by 扇原篤子(おぎはら・あつこ)】1973年から夫の仕事の都合でハワイに転勤。現地で暮らすうちにある一家と家族のような付き合いが始まる。帰国後もその 一家との交流は続いており、ハワイの文化、歴史、言葉の美しさ、踊り、空気感に至るまで、ハワイに対する考察を日々深めている。【最近の私】たけのこの炊き込みご飯や蕗の炒め物。季節感いっぱいの春を楽しんだが、例年と違うのは花粉症。いったいどうしたのかと思っていたら、どうも昨日あたりからクシャミが出始めた。今年の寒い春でけやきの花粉が出遅れたのかな??
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ハワイへ行って間もなくのことだ。夫が仕事に出かけてしまえば、日中は私一人。狭いアパートを掃除し洗濯を終えれば、他に何もすることはない。時間を持て余した私は、自分用の車を持ち行動範囲が広くなったこともあり、ハワイ大学で聴講をしようと思い立った。特に何を勉強したいというわけでもなかったので、とりあえず日本で通った大学の専科、アメリカ文学のクラスをとることにした。
ハワイ大学はとてもオープンで、聴講を希望する者には年齢、国籍に関係なく門戸は広く開かれている。試験も一般学生と同等に受けることができ、成績表もきちんとついてくる。単位も取得でき、その気になれば一生かかって積み重ねた単位で、正式にハワイ大学の卒業資格も取れるのだ。
問題は、当時の私の英語のヒアリングが、大学の授業を理解できるほどであったかどうか。日常会話に関してはさほど問題はなかったが(電話は怖かった・・・)、大学の授業となると話は別だ。必死になって聞いたはずでも、授業の内容の半分も理解していなかったと思う。そこで隣の席にいたローカルの白人女性のクラスメートに、授業ノートを借りることにした。そして、これがきっかけで、その女性と親しく付き合うようになった。
ある日、私は夫と共にそのクラスメートのお宅の夕食に招かれた。
彼女の夫は日系人で、彼の両親も同居。ご両親と私たちは日本語も交えながら、ひとしきり話に花を咲かせた。その中で、日本はどこに住んでいたかと尋ねられ、東京だと答えたところ、彼女の夫はキチジョウジを知っていると言う。吉祥寺は私の庭のようなもの、世界は何て狭いのだろうと驚いた。
話も一段落してお腹もすいたことだし、みんなで夕食のテーブルについた。私たちがフォークとナイフに手を伸ばそうとしたその時、彼女たち夫婦は両手を前に組み、うつむいてお祈りを始めた。食事の前にお祈りする習慣はない私たちも、あわてて同じように手を組みうつむいたが、慣れないせいか何となく照れくさかった。お祈りが終わり、食事の前にまず出てきた飲み物はビールではなくミルク(暑いハワイでは、まずビールから始まるのが通常だった)。食事が終わった後にはコーヒーではなく水が出てきた。この家ではタバコも禁じられており、当時、ヘビースモーカーだった私の夫にとっては、少しつらい時間を過ごすことになった。それでも、そんな彼らの様子を見て、ずい分と規律正しい生活をしている人たちだな、と感じた。
それから数日たって、アパートのマネージャーのオナーと話をしているうちに、その日系人の話が出た。ヒロは狭い町なので、オナーは2人のことを知っていて、「あの人たちはモルモン教徒なのよ」と教えてくれた。
現在、アメリカでは11月に行われる大統領選が盛り上がっている。この選挙のカギを握る、中間所得層の票獲得をめぐって争っているのが、現大統領で民主党のオバマ氏と共和党所属のロムニー氏だ。これまでの大統領はケネディを除き、すべてプロテスタント。一方、ロムニー氏はモルモン教徒ということもあり、今まで以上に選挙の行方が話題を集めている。日本にいると、宗教のことを身近に感じる機会があまりないが、私はハワイで意外な出会いを経験したこともあり、今回の大統領選のニュースにも大いに注目している。