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第5回:アボリジナルアートは友情の証
2010年07月09日

【written by メイソン千恵(めいそん・ちえ)】オーストラリア人の夫と共にブリスベンに在住。現在はオーストラリアの先住民、アボリジニを支援する団体「ノワカ」で活動中。驚きや感動を抱きながら、独特の文化と生活に触れている。
【最近の私】先週末、メルボルンに遊びに行ってきました。むこうは田舎ブリスベンと違って、オシャレなお店やカフェ、クラブも多くて楽しい! でも、極寒でした...。
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ノワカでは"ビッグ・デイ・アウト(Big Day Out)"という地域のイベントを開催しました。ノワカの活動するアボリジニコミュニティの中からダンサーや、アーティスト、ディジュリドゥプレイヤーなどを集め、パフォーマンスやワークショップを行いました。当日は300人ほどの人々が集まり、イベントは大成功でした。

その日は、たまたま私の弟と彼女が日本から遊びに来ており、このイベントにも参加しました。アボリジナルアートのワークショップを受けた彼らは、いつの間にかアーティストのウォレン(Warren)と仲良くなり、和気あいあいと楽しそうにしていました。優しいウォレンはあまり英語の分からない弟たちにも根気よく、いろいろと教えてくれていた様子。そこで私は、ウォレンに弟たちへのプレゼントとして絵を描いてもらえるか頼んでみました。ウォレンは快く引き受けてくれ、弟たちがリクエストした通りクロコダイルをモチーフにしたアボリジナルアートを描いてくれたのです。絵のタイトルは"フレッシュウォーター・ドリーミング(fresh water dreaming)"。ウォレンいわく、この一見シンプルな名前には、実は深い意味があるそうです。

まず、"fresh water"とは、ウォレン出身の部族を表しています。ウォレンはワカワカ(Waka Waka)という部族出身で、ワカワカ族は、ブリスベンから北西に約200kmほど離れたチャーボーグ(Cherbourg)という地域に属しています 。この地域に住むアボリジニの人々は、"フレッシュウォーター・ピープル(fresh water people)"とよばれ、川など淡水の周りで生活する人々を指します。一言にアボリジニと言っても、"fresh Water people""salt water people(海辺で生活する人々)""desert people(砂漠で生活する人々)""bush people(森で生活する人々)"などに分かれており、それぞれにまったく異なる生活様式や文化を持っているのです。

また、ドリーミング(dreaming)とは、アボリジニの人々が使う特有の言葉で、天地創造の歴史やストーリーを表します。それぞれの部族により、ドリーミングは異なりますが、主には3つの重要な時代からなります。まず、何も存在しなかったころの"始まりの時代"、天地や動植物が生まれたとされる"創造の時代"、 そして現代を含めた"伝承の時代"です。 アボリジニの人々は、"創造の時代"に築いた部族の歴史や、生きるために必要な知恵や技術を、 絵やダンス、歌などを通し現代まで受け継いできたのです。"伝承の時代"にあたる現代では、そのようにドリーミングの痕跡をたどることを"ドリーミング"とよんでいます。
 
ウォレンは、弟たちに本当のオーストラリアを、そして自分の部族のドリーミングを知ってもらいたいという思いを込めてこの絵を描き、名前を付けてくれたそうです。友情の証だと言っていました。ウォレンの思いが弟たちにどれほど伝わったかは分かりませんが、弟は「日本からサムライの刀を送る」と言って、固い握手を交わしていました(サムライ好きのウォレンは大喜び)。

いろいろとわがままを言ったにも関わらず、ウォレンは弟たちに絵をプレゼントできて嬉しかったと言ってくれました。いつか私もウォレンに素敵なドリーミングのストーリーを描いてもらいたいと思います。

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    アボリジナルアートワークショップにて        子供たちにアートを教えるウォレン


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        アートを楽しむ子供たち              ウォレン宅にて、絵を受け取った時。
                                     右からウォレン、私の弟、弟の彼女。