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第11回:アボリジニコミュニティでの家庭問題
2010年12月17日

【written by メイソン千恵(めいそん・ちえ)】オーストラリア人の夫と共にブリスベンに在住。現在はオーストラリアの先住民、アボリジニを支援する団体「ノワカ」で活動中。驚きや感動を抱きながら、独特の文化と生活に触れている。
【最近の私】今年のクリスマスは、メルボルンで夫の親戚と過ごしました。100人以上の超ビックなファミリーなので名前を覚えるだけで一苦労です...。
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数ヶ月前のある日、ノワカに1本の電話が入りました。出てみると、相手はシェリーと名乗る女性で、チアはいるかと聞かれました。自分だと答えると(オージーが"チエ"と言うと"チア"になる)、シェリーは、妹と子供たちが家に閉じ込められているから、助けてほしいと言うのです。よく話を聞いてみると、彼女の妹とは、ノワカコミュニティのママの1人、ニコールのことでした。

私は以前、地域の子供たちを集めてゲームやスポーツなどをするプログラムを担当していたことがあり、それを通してニコールの子供たちに出会いました。子供たちの送り迎えをするたびに、ニコールと会っていたので、彼女とは仲がよくなりました。

しかし、そのニコールと子供たちが閉じ込められているとは一体どういうことなのでしょう。焦りと不安でドキドキしながらも話を聞くと、閉じ込めたのは、なんと彼女の夫だとのこと。「夫って、あのいつも子供たちを学校まで迎えに行ってる優しそうなケニー!?」と、私は一瞬耳を疑ってしまいましたが、彼はどうやらアルコールが入ると人が変わってしまうそう。普段は優しいけれど、酔っていると、ニコールに暴力を振るうこともあるのだとか。彼はニコールと子供たちを家に閉じ込め、外から鍵をかけてどこかに行ったきり24時間以上戻ってこないとのこと。ニコールの携帯には、電話をかけるだけのクレジットが残っておらず、お姉さんにメールで私に電話をするように伝えたのだそうです。ニコールは半年くらい前に4人目の赤ちゃんを産んだばかり。これは早くなんとかしなければ、子供たちも危ないかもしれない。私はどうしていいかわからず、まずボスに相談をしました。ボスはすぐに家庭内暴力防止センターに電話し指示をあおると、そういうケースはとても危険なので、すぐに警察に連絡をするようにと言われました。単独での行動は絶対に避けた方がいいとのこと。ニコールのお姉さんに警察は呼ばないでほしいと言われていたので何だか悪い気がしましたが、ボスは安全上やむを得ないと言いました。

そこで今度は警察に電話をし、状況を説明。警察によると、彼はまだ家の周りにいるはずだとのこと。作戦としては、まず5人のポリスマンが現地に向かい、離れた場所にパトカーを停め、彼らの家の周辺に隠れて待機する。そして私たちノワカスタッフが普段を装い家を訪れ、彼が出てきたところを確保する...というもの。しかし実際には、私たちが家に着く前にケニーは戻って来ました。私たちがたじろいでいると、2人のポリスマンがすぐさま出て来て、何かケニーに話した後、手錠をかけました。ケニーは暴れることもなく、すんなりと手錠をかけられ、別のポリスマンが迎えに来たパトカーに乗って、連れていかれました。

そのあと残ったポリスマンたちによってドアが開けられ、泣きはらした目をしたニコールと子供たちが出てきました。彼女の額には殴られたような跡がありましたが、子供たちは状況が把握できていない様子でいつも通りニコニコしていました。

数日後、ニコールに電話してみると、ケニーは釈放されて、彼のお姉さんのところで療養中とのことでした。お姉さん曰く、ケニーは自分でもよくわかっており、酒を止めようと努力はしているものの、なかなか止められない状況が続いていたということ。

それから数ヵ月経ったつい先日、道端でばったりケニーとニコールと彼らの4人目の赤ちゃんに会いました。ケニーは軽くあいさつだけすると、恥ずかしそうにどこかに行ってしまいしたが、ニコールも赤ちゃんもとても元気そうでした。ニコールは、「あれ以来ケニーはお酒を口にしていないし、これからも飲むつもりはないと言って頑張っているの」と言って嬉しそうにしていました。

残念なことに、ケニーに限らず、アボリジニコミュニティでの家庭内暴力は珍しいことではありません。ほとんどの場合はアルコールやドラッグが原因です。ノワカでは、アボリジニ男性を対象にしたプログラムを実施することを予定しています。参加者は男性限定、彼らが現在抱えている問題や悩みをオープンに打ち明けられるスペースを作ることが目的です。このプログラムが、少しでもアルコール中毒などによる家庭内暴力に悩む男性とその家族の役に立ってくれることを願っています。