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第3回:伝統に新風を吹き込むダンサーたち
2010年05月20日

【written by メイソン千恵(めいそん・ちえ)】オーストラリア人の夫と共にブリスベンに在住。現在はオーストラリアの先住民、アボリジニを支援する団体「ノワカ」で活動中。驚きや感動を抱きながら、独特の文化と生活に触れている。
【最近の私】オーストラリアで、かなりハマっているのは和太鼓! 5月末にヒップホップ×ディジュリドゥ×和太鼓のコラボでパフォーマンスをする予定。Can't wait!
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先日、ノワカでは、有名なアボリジニのダンサーグループ、"チョッキーダンサーズ(Chooky Dancers)"を見に行きました。彼らはオーストラリア北部の島、エルコ(Elcho)島のヨルング(Yolngu)族出身。ヨルング族は、最近では数少ない、独自の言語を話す部族 (彼らにとって英語は第2言語)です。このグループのダンスは伝統的なものとはちょっと違って、ギリシャの音楽や60年代ディスコ調の音楽に合わせて踊ります。メンバーのほとんどは、最近までエルコ島を離れたこともなかったそうですが、今ではその変わったダンススタイルがYouTubeなどで評判になり*1、オーストラリア中を周ってパフォーマンスをしているそうです。ボディーペインティング(アボリジニの人々が儀式の際に体に塗るペイント)体中に施した彼らが踊るディスコ調ダンスには、ちょっと妙なものがありましたが、会場は終始笑い声につつまれ、みんなとても楽しそうでした。一緒に連れて行った子供たちもゲラゲラ笑い、大はしゃぎ。私は最初のうち、「せっかくのアボリジニ衣装が台無しだ......」とちょっとがっかりしていましたが、会場に集まった人たちの笑顔を見ていたら、すぐにその考えも変わり、大いに楽しめました。

パフォーマンスの後、アボリジニの友人はTシャツにサインをもらいさらに握手もして喜んでいました。その友人は、「彼らはブリスベンのアボリジニとは違う」と言います。「ブリスベンに住むアボリジニの人々は、いつも伝統文化を忠実に守ろうとしているけれど、彼らはもっと自由な感じがする」と。ブリスベンのアボリジニは、いわゆる"都会のアボリジニ(City Aborigine)"。伝統的な料理や言語、文化、習慣などにあまり触れることがなく、彼らの間からは失われつつあります。そのため、独自の文化にこだわり、守っていこうとする人々が多いのです。それに比べ、チョッキーダンサーズの地元・エルコ島は、いまだに昔ながらの生活様式が強く残る、数少ない地域のひとつです。そうした土地に住む彼らだからこそ、伝統的なダンスに一味加えたものを作り出すことができたのでしょう。

チョッキーダンサーズの目標は、ストリートで暮らすアボリジニの若者たちにポジティブな影響を与え、そのお手本となること。普段着のチョッキーダンサーズは、ブリスベンのストリートを歩くアボリジニの少年たちと何も変わりありません。だからこそ、彼らの姿は同じアボリジニの人々、とくに同年代の若者を元気づけられるはずです。これからもチョッキーダンサーズが大いに活躍し、ストリートの若者たちの良きお手本となっていってくれることを願っています。

*1 チョッキーダンサーズの映像は「You tube」で見ることができます。
・2007年、結成間もない頃

・2008年、Yirrkala(ノーザンテリトリー)のコミュニティでのパフォーマンス

・"Australias Got Talent " ( "America's Got Talent"のオーストラリアバージョン)というテレビ番組に出演したときの映像

・コメディ・フェスティバル"comedy gala " にて

第2回:夢と希望を与える勝利
2010年05月07日

オーストラリアではラグビーが盛んです。アボリジニの人々の間でもラグビーはとても人気があり、プロの選手も数多くいます。また、一般のアボリジニの人々を対象にしたラグビーイベントも多数開催され、いつもにぎわっています。

先日はゴールドコーストで、"NRLオールスターズ vs. NRLインディジネス・オールスターズ ( NRL All Stars vs NRL Indigenous All Stars )"の試合が行われました。この試合は、ケビン・ラッド(Kevin Rudd)首相のアボリジニの人々に対する謝罪日*1の2周年を記念して、実施されたもの。アボリジニ対ノンアボリジニの試合は初めてで、国内では大きな話題になりました。

NRL は「ナショナル・ラグビー・リーグ」の略で、オーストラリアのプロリーグのこと。両チームともファン投票で選ばれたNRLの選手で構成され、インディジネスはアボリジニの選手のみ(トレス海峡諸島民含む)、オールスターズはそれ以外の選手のチームです。スタジアムにはアボリジニの人々も大勢詰め掛け、大きな旗を掲げてインディジネスを応援。選手はフィールド内に目印として立てられたポールをディジュリドゥ(Didjeridu)*2のようにして吹くまねをし、ハーフタイムにはプロのアボリジニダンサーたちが伝統的なダンスを披露するなど、アボリジニ色の強いビッグイベントになりました。結果は、16 -12でインディジネス・オールスターズが勝利! オーストラリア全土のアボリジニの人々に、多くの夢と希望を与える試合になりました。

実はこの試合には、ノワカで一緒に働く友人の息子も出場していました。彼の名はジュラル・ヤウ・イェー(Jharal Yow Yeh)。ブリスベン・ブロンコス(Brisbane Broncos)所属の選手です。20歳とまだ若く、普段は家族思いの優しい青年で、最初に会った時はまだ少年っぽさの残るひょろっとしたイメージでした。それが今ではたくましく立派なフットボール選手。感慨深いものがあります。これまでラグビーにはあまり興味のなかった私ですが、今回、初めて彼がプレーする姿を見て、とても感動しました。グランドを駆け回り、身を挺して相手のゴールを防ごうとする勇気あるプレー。思わず胸が熱くなりました。私ですらこんな気持ちになったのですから、アボリジニの人々はさぞかし嬉しかったことでしょう。彼の地元は、ノワカが活動しているコミュニティです。私の知っているアボリジニの子供たちも、自分達のスーパーヒーローが出場する今回の試合をとても楽しみにしていました。

オーストラリアには、今もなおアボリジニの人々に対する典型的な差別や偏見が残っています。ジュラルには今後も、アボリジニの人々が、そしてオーストラリア国民全体が誇れるラグビー選手として頑張って欲しいと思います。

Go Jharal! Go Indigenous All Stars!!! 

*1 2008年2月13日、ケビン・ラッド(Kevin Rudd)首相は、過去の差別的政策で被害を受けたアボリジニの人々に対し、議会で正式に謝罪しました。これはオーストラリア政府としては初めての謝罪であり、アボリジニの人々にとって歴史的な日となりました。

*2 ディジュリドゥ(Didjeridu)とは、シロアリに食われて筒状になったユーカリの木から作られる、アボリジニの伝統楽器。


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所属チームであるブロンコスの                                 インディジネス・オールスターズの
ユニフォームを着たジュラル。結構モテます。              ユニフォーム。今回の試合のために
                                                                          アボリジニアーティストによって、
                                                                          デザインされたもの。
                                                                          
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ジュラルの名前入りアボリジニデザインユニフォームを   ジュラルと、お母さんのロンダ(Rhonda)。
着て応援する、ヤウ・イェーファミリー&フレンズ。          ジュラルの20歳の誕生日パーティにて。 

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ジュラルと14歳の弟、キーナン(Keaan)。
ジュラルも昔は、キーナンのように小さかったとのだとか。