第2回:夢と希望を与える勝利
2010年05月07日
オーストラリアではラグビーが盛んです。アボリジニの人々の間でもラグビーはとても人気があり、プロの選手も数多くいます。また、一般のアボリジニの人々を対象にしたラグビーイベントも多数開催され、いつもにぎわっています。
先日はゴールドコーストで、"NRLオールスターズ vs. NRLインディジネス・オールスターズ ( NRL All Stars vs NRL Indigenous All Stars )"の試合が行われました。この試合は、ケビン・ラッド(Kevin Rudd)首相のアボリジニの人々に対する謝罪日*1の2周年を記念して、実施されたもの。アボリジニ対ノンアボリジニの試合は初めてで、国内では大きな話題になりました。
NRL は「ナショナル・ラグビー・リーグ」の略で、オーストラリアのプロリーグのこと。両チームともファン投票で選ばれたNRLの選手で構成され、インディジネスはアボリジニの選手のみ(トレス海峡諸島民含む)、オールスターズはそれ以外の選手のチームです。スタジアムにはアボリジニの人々も大勢詰め掛け、大きな旗を掲げてインディジネスを応援。選手はフィールド内に目印として立てられたポールをディジュリドゥ(Didjeridu)*2のようにして吹くまねをし、ハーフタイムにはプロのアボリジニダンサーたちが伝統的なダンスを披露するなど、アボリジニ色の強いビッグイベントになりました。結果は、16 -12でインディジネス・オールスターズが勝利! オーストラリア全土のアボリジニの人々に、多くの夢と希望を与える試合になりました。
実はこの試合には、ノワカで一緒に働く友人の息子も出場していました。彼の名はジュラル・ヤウ・イェー(Jharal Yow Yeh)。ブリスベン・ブロンコス(Brisbane Broncos)所属の選手です。20歳とまだ若く、普段は家族思いの優しい青年で、最初に会った時はまだ少年っぽさの残るひょろっとしたイメージでした。それが今ではたくましく立派なフットボール選手。感慨深いものがあります。これまでラグビーにはあまり興味のなかった私ですが、今回、初めて彼がプレーする姿を見て、とても感動しました。グランドを駆け回り、身を挺して相手のゴールを防ごうとする勇気あるプレー。思わず胸が熱くなりました。私ですらこんな気持ちになったのですから、アボリジニの人々はさぞかし嬉しかったことでしょう。彼の地元は、ノワカが活動しているコミュニティです。私の知っているアボリジニの子供たちも、自分達のスーパーヒーローが出場する今回の試合をとても楽しみにしていました。
オーストラリアには、今もなおアボリジニの人々に対する典型的な差別や偏見が残っています。ジュラルには今後も、アボリジニの人々が、そしてオーストラリア国民全体が誇れるラグビー選手として頑張って欲しいと思います。
Go Jharal! Go Indigenous All Stars!!!
*1 2008年2月13日、ケビン・ラッド(Kevin Rudd)首相は、過去の差別的政策で被害を受けたアボリジニの人々に対し、議会で正式に謝罪しました。これはオーストラリア政府としては初めての謝罪であり、アボリジニの人々にとって歴史的な日となりました。
*2 ディジュリドゥ(Didjeridu)とは、シロアリに食われて筒状になったユーカリの木から作られる、アボリジニの伝統楽器。