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第15回:アボリジニの少年犯罪
2011年04月14日

【written by メイソン千恵(めいそん・ちえ)】オーストラリア人の夫と共にブリスベンに在住。現在はオーストラリアの先住民、アボリジニを支援する団体「ノワカ」で活動中。驚きや感動を抱きながら、独特の文化と生活に触れている。
【最近の私】実は現在妊娠中で6月に出産予定です。そこで今月から数ヶ月の間、コラムをお休みさせていただくことになりました。今まで私のコラムを読んでくださったみなさま、本当にどうもありがとうございます。また復帰しだい、よろしくお願いいたします。
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ノワカでは、罪を犯したり、少年院に入っていたりした少年・少女たち向けプログラムを行っています。プログラムの内容は、「ライフスキル」「スポーツ」「アート」「ミュージック」などさまざまです。私のノワカでの仕事は広報関連なので、普段あまりプログラムに関わることはないのですが、2〜3月は特別プログラムを実施するということで、ジャパニーズクッキングを3週にわたり教えることになりました。

メニューは"安い、簡単、お腹にたまる、彼らの口にも合いそう"を基準に『コロッケ』『タコライス』『そぼろどん』の3食を選びました(タコライスはジャパニーズとも言えないかもしれませんが...)。

soboro.jpg少年6人&アボリジニ男性ユースワーカー(Youth worker: 青少年指導員)3人を相手に、米の研ぎかたを説明し、料理酒を飲もうとする少年を止めたりしながら、なんとか3回とも無事終了......。まずいと言ってキレられたらどうしようかと内心ヒヤヒヤしていましたが、どれも彼らのお口に合ったようで、一安心でした。プログラムの最中に喧嘩などのトラブルが起こることもしばしばあるのですが、みんな最後の洗い物も掃除も文句ひとつ言わずやってくれました。

数日前、プログラムに参加していた少年に道端でばったり会ったのですが、すれ違いざまに笑顔で「That tucker was deadly!」(tucker:アボリジニの人々が"meal(食べ物)"の意味でよく使う言葉、 deadly:同じく"so good(とても良い)"の意味) と言ってくれ、とても嬉しかったです。

このように私もプログラムに参加したり、職場で会ってBoys.jpgアボリジニの少年たちと話をしたりする機会がときどきあるのですが、みんな基本的にはとても明るく性格の良い子たちばかりです。でも悲しいことにノワカばかりでなく、オーストラリア全体を見ても、アボリジニの少年犯罪は頻繁に起こっています。ノワカのコミュニティを見ていても感じるのですが、アボリジニの子どもたちは13〜14歳で学校に行かなくなり、何もしない退屈な生活の中で刺激を求め、犯罪に手を出してしまうケースが多いようです。アボリジニの子どもたちが学校に行かなくなる理由はさまざまですが、主な原因は学校教育に窮屈なものを感じたり、差別されたりすることのようです。

昔はアボリジニにはアボリジニの教育方法があり、それに従って文化や生活習慣を代々受け継いでいました。しかし白人社会が浸透した現在ではその習慣も失われ、家族からは何も学べない、でも学校の教育方針にも馴染めず学校にも行かない、という子どもたちが多くいます。

また、アボリジニコミュニティで問題になっているアルコール中毒の親から生まれた子どもや、親が教育を放棄し、ホストファミリーに育てられている子どもたち、刑務所やストリートで生まれた子どもたちなども多く、彼らが犯罪に手を出す可能性が高いのも悲しい現実です。

よくアボリジニの大人たちは「少年院はアボリジニの学校。どこの少年院出か聞けばそいつの出身がわかるよ」などと冗談を言ったりします。そして実際に、少年院や刑務所にいたことのある人がとても多いのです。

しかし、そうなる理由は、アボリジニの人たちの犯罪率が高いからというばかりでなく、警察もアボリジニの人々を目の敵にしており、通常であれば厳重注意で済む状況であってもアボリジニというだけで即逮逮捕、などということが頻繁に行われているためでもあります。また、不公平な社会に対し反感を持つ若者も多く、さらに罪を犯す...という悪循環になってしまっているようです。

こういった状況の中で、ノワカのユースワーカーたちを含め、若者たちの未来のためにアボリジニコミュニティを少しでも良くしようとする人々もたくさんいます。そういう人たちも昔は非行少年であったというケースも多いのですが、だからこそ、若者たちに伝えられることが多いのでしょう。今後はアボリジニの若者たちが、自分がアボリジニであることを誇りに思い、胸を張って生きられる社会になっていくことを願っています。そうすれば、少年犯罪もおのずと少なくなり、アボリジニコミュニティの明るい未来につながるのではないかと思います。

※「最近の私」にもあるとおり、このコラムはしばらくお休みになります。メイソンさんの復帰をお待ちください!