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第16回:『オーストラリア・デー』とアボリジニ
2012年02月24日

【written by メイソン千恵(めいそん・ちえ)】オーストラリア人の夫と共にブリスベンに在住。現在はオーストラリアの先住民、アボリジニを支援する団体「ノワカ」で活動中。驚きや感動を抱きながら、独特の文化と生活に触れている。
【最近の私】出産のためしばらくお休みをいただいていましたが、やっと復帰しました!初めてのベイビーとの生活で、毎日忙しくも楽しい日々を送っています。これからまた少しずつアボリジニ情報を発信できればうれしいです。
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1月26日は「オーストラリア・デー(Australia Day)」と呼ばれる祝日で、1788年にイギリス人が初めてシドニーに到着したことにちなんで定められました。オーストラリアでは毎年、各地でこの日を祝うたくさんの祭典が行われます。国内では、大半の人がオーストラリアの生まれた記念すべき日と考える一方で、アボリジニの人々の中にはこの日を白人に侵略された日と考える人もおり、彼らにとっては悲しい過去を改めて思い出す1日でもあるのです。

今年、キャンベラで行われた祭典では、ジュリア・ギラード首相やトニー・アボット野党リーダーなどによる、緊急救助関係者の表彰式を実施。同じ頃、「テント大使館」にも、アボリジニの活動家たちが200人ほど集まっていました。「テント大使館」とは、アボリジニグループが40年前に先住民族土地権を主張して、ビーチパラソルを立てて座り込み抗議を行った場所です。土地権が認められた現在でも、先住民族国家の代表として守り続けられています。表彰式の前に、アボット氏はラジオで「昔はテント大使館にも意義があったかも知れないが、問題は片付いた。有効期限は過ぎたのだ。もう次に進むべきではないか」と発言。これに怒ったアボリジニ抗議グループの人々の多くが、表彰式場の窓ガラスを叩き、ギラード首相やアボット氏に対して「恥を知れ(shame)」とか「差別主義者(racist)」などと叫んだのです。

グループの抗議対象はアボット氏でしたが、ギラード首相のボディガードは首相にも危険が及ぶと判断。首相は50人ほどの警察官とボディガードに守られて避難しました。その際、首相の靴が脱げたのですが、それを抗議グループが拾い、「トロフィー」のように掲げました。

靴は抗議グループによって首相に返されましたが、実はこのとき、靴を持っていたのは私の友人、グエンダでした。彼女はノワカを通して知り合った女性で、この日は抗議デモのためキャンベラまで足を運んでいたようです。

事件が起きた数日後、私は別の友人、ルースさんに会いました。彼女はアボリジニ活動家で、子供たちの未来のために少しでもアボリジニコミュニティが良くなるよう常に働きかけている女性です。彼女は抗議グループの取った行動をニュースで見て、とても腹を立てており「グエンダたちがしたことは間違っている。私が今まで子供たちに"暴力で物事は解決されない"と教えてきたことが水の泡になってしまった。彼らは何があっても暴力的な行動にでるべきではなかった」と語っていました。

確かにアボット氏の発言は不適切ではありました。しかし抗議グループの取った行動は、 アボリジニに対するイメージをネガティブなものにし、その場にいなかったアボリジニの人々にも非難の目が向けられたことでしょう。もちろん抗議者全員が暴力的な行動に賛成していたわけではないでしょうし、その場の勢いのようなものもあったのだと思います。

グエンダがキャンベラに向かった目的は、オーストラリア・デーへの抗議、そしてテント大使館40周年を祝うことであり、あのようなことが起こるとは想像していなかったはずです。彼女はとても優しく、かつ情熱的な女性で、いつも地域のアボリジニの人々のためにさまざまな活動を行っています。ただ、知らない人からすれば、グエンダもやはり「暴力的な抗議グループの1人」なのです。今回のようなことで、同じようにアボリジニコミュニティを良くしようと活動している人同士が対立するようなことになっては残念です。

問題はメディアにもあります。ニュースは「首相がアボリジニ集団に攻撃され、命からがら逃げました」ということに焦点を当てた話ばかりで、抗議グループに対する視線は厳しくなるばかりです。インターネットのブログなどでも「もう政府も謝罪したし、アボリジニはこれ以上、いったい何がほしいのか」といったような内容のものもいくつか見られました。

私個人としては、「オーストラリア・デー」という名前、もしくは日にち自体を変えるべきではないかと思います。 確かに、いつまでも過去を引きずっているわけにはいきません。でも長年にわたり、多くの屈辱を受けてきたアボリジニの人々にとって、この日が「侵略の日」であることに間違いはないのです。まずは本来の住人であるアボリジニの人々をリスペクトし、その上でお互いを尊重し合って、平和な社会を築いていけるといいと思います。

◆今回の 「オーストラリア・デー」 にまつわるニュース映像 
「Julia Gillard Attacked in Riot」
http://www.youtube.com/watch?v=wo9BPqIols8
「Australian PM gets her shoe back after protest scuffle」
http://www.youtube.com/watch?v=9fcX94BLO28