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第12回:"時間"を持たないアボリジニの人々
2011年01月21日

【written by メイソン千恵(めいそん・ちえ)】オーストラリア人の夫と共にブリスベンに在住。現在はオーストラリアの先住民、アボリジニを支援する団体「ノワカ」で活動中。驚きや感動を抱きながら、独特の文化と生活に触れている。
【最近の私】クイーンズランドでは、昨年末から続いた大雨の影響で歴史的な大洪水が起こりました。ブリスベン各地の人々が被害を受け、亡くなった人や行方不明になった人も大勢います。もう2度とこのような災害が起こらないことを心から祈っています。
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今回の原稿を書くにあたり、「新年」「お正月」というテーマをいただきました。しかし、これにはいくら頭をひねってもふさわしい話題が浮かんできません。というのも、元々アボリジニの人々は時間という概念を持っておらず、お正月どころか日本の「季節の行事」にあたるようなものは存在しないのです。もちろん現代のアボリジニ、特に都市部に住む人々は他のオーストラリア人と同じように、クリスマスや年明けを祝います。クリスマスは家族と盛大に過ごし、大晦日は友達とビール飲みながらカウントダウン。しかし、お正月を祝う習慣はなく、年が明けるといつもの週末とかわらず、BBQしたり、フットボールを見たり、ビーチに行ったりしています。ブリスベンのアボリジニの人たちもまさしくそんな感じです。

というわけで、「お正月」というテーマからは外れてしまうのですが、今回はアボリジニの人たちの"時間"に対する考え方について書いてみたいと思います。

前述したようにアボリジニの人々に過去や未来という時間の概念はありません。現代でも伝統的な生活を送っているアボリジニの人々は、"何時に待ち合わせ"とか、"何時から何時までこれをする"というように時間によって予定を立てることをしません。また、自分の年齢を知らない人々も大勢います。

彼らが時間の代わりに持っているのは「ドリームタイム(ドリーミング)」という考え方。祖先から伝わる数々の天地創造の神話を語り継いでいくことを指しています。天地創造の神話も大昔のできごとではなく、現在、そして未来へと続くと考えており、人々は、今この瞬間もドリームタイムをたどり続けているのです。アボリジニの人々は、ドリームタイムをそれぞれの生活に反映し、常に結びつきを保ちながら暮らしています。つまりドリームタイムは神話でもあり、歴史でもあり、また彼らが生活をする上での大切な概念でもあります。多くのアボリジニアート(ペインティングなど)には、そのアーティストのドリームタイムを表現しています。アボリジニの人々はもともと文字を持ちませんでしたから、アートによって、神話や概念、伝統を受け継いでいったのです。

ドリームタイムには確実な定義がなく、はっきりしたことは誰にも分かっていません。世界中の学者達が長年議論しているのに、いまだに確実なことはよく分かっていないそうです。アボリジニの人達も、地域や人によって異なる説明をします。でも、ドリームタイムとはこういうものであるという話を受け継いでいくこと、そしてそれを理解しようとし、自分の生活の中に取り入れて考えてみること、それ自体もドリームタイムなのではないかと私は思っています。

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      エミュー(オーストラリアネイティブのダチョウ)の卵にペインティングをした作品

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     ブーメランにペインティングをした作品