明けの明星が輝く空に

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第21回:光らない光線なんて!
2011年10月07日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】ラグビーのW杯もいよいよ準決勝。今大会こそは、"我が"オールブラックス(ニュージーランド)の優勝を見たい!
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前回、スペシウム光線について少し触れたが、"光線"や"光線技"という言葉は不思議だ。未来を予感させると同時に、昭和の匂いがプンプンと漂う。"光線銃"ともなると、特撮番組の映像に加えてオモチャ屋や駄菓子屋の風景まで目に浮かんできてしまう。

"光線"が魅力的だったのは、その威力もさることながら視覚的要素も大きかった。例えばスペシウム光線は、まばゆい光がキラキラとしてなんとも華やかだ。それはまさに、光の国から来たヒーローにふさわしい決め技。闇が悪を連想させる一方で、光は正義と結びつく。スペシウム光線がウルトラマンのイメージを形作るのに、どれだけ貢献したかは計り知れないものがあるだろう。

もちろん光線技は、ウルトラマンやウルトラ兄弟の専売特許ではない。円谷プロ以外が生み出したその他の特撮ヒーロー、例えばスペクトルマンやマグマ大使もそれを使った。しかし彼らの場合、光線とは名ばかり。光線なのに光らなかったのだ!それは撮影されたフィルム上に描かれた"絵"に過ぎず、色がべったりしていて、透明感も立体感もなかった。当然、スペシウム光線の持つ華やかさは皆無だ。

では、光輝くスペシウム光線はなぜ可能だったのか。それは、当時世界に2台しかないという最新鋭の光学処理機器があったからだ。その名はオプチカル・プリンター。それを使うことによって、撮影されたフィルムを他のフィルムに焼き付ける、つまり合成が可能になった。フェードインやフェードアウトのほか、二つの映像をクロスオーバーさせて場面を切り替えるなんていうこともできるらしい。

スペシウム光線の場合、詳しい撮影手順は資料が見つからずわからない。でも、いろいろな情報を元に足りない部分を想像すると、だいたい次のようなやり方だったのではないかと思われる。

まずは、手書きで光線を描く。そこに下から光を当て、光線に輝きを持たせる。これは透過光と呼ばれる手法で、アニメーションでもよく使われるものだ。発射された光線が進んでいく様子をひとコマずつ撮影すれば、スペシウム光線だけの映像が完成。そして、あの決めポーズをとっているウルトラマンの映像と合成する。僕らがTV画面で見た、クライマックスシーンの出来あがりだ。

オプチカル・プリンターは、その他にも様々な特撮場面を生み出した。"宇宙忍者"と異名をとるバルタン星人は、忍者の名に恥じず分身の術を使う。夜、暗い建物の中に現れ、科学特捜隊の隊員の目の前で何体にも分かれていく場面は、『ウルトラマン』屈指の名シーン。巨大化したあと一旦は倒されるものの、幽体離脱するかのように、もう1体のバルタン星人がそこから立ち上がる場面もあった。さすが、のちにウルトラマン最大のライバルと目されるようになった敵役だけのことはある。主役に負けないぐらい、オプチカル・プリンターの恩恵を大いに受けていたというわけだ。