明けの明星が輝く空に

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第39回:ヒロインならではのアクション
2013年03月28日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】巨大ロボットが怪獣と戦うという、ハリウッド映画ができたらしい。期待していいものかどうか。やっぱり微妙なんだろうな・・・。
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最近のハリウッド映画には、華麗なアクションを見せるヒロインたちがいる。彼女らのような軽やかさや優雅さを押し出したアクションは、見ていてとても気持ちがいい。僕は日本の特撮番組も、もっとそういった要素を取り入れるべきなんじゃないだろうか、と思うことがある。

例えば、『アイアンマン2』に登場したエージェント・ロマノフ。相手の首に足をからめ、そこを軸に体を振り子のように振って投げ飛ばす。流れるような動きで敵をいともたやすく倒してみせる姿は、実にカッコいい。他にも、バイオハザードシリーズの主人公アリスや『ダークナイトライジング』のセリーナ(キャットウーマン)、『イーオン・フラックス』のイーオン・フラックスなど、みな美しいアクションで、見ている者を楽しませてくれる。彼女たちを評するのに、「男勝り」という言葉は適切ではないだろう。なぜなら、筋力を誇示するような男性的な戦い方とは、そもそも方向性が違うからだ。

我らが日本の特撮番組にも、戦うヒロインはいる。『キカイダー01』のビジンダーに始まり、『仮面ライダーストロンガー』の電波人間タックル、『宇宙刑事シャイダー』のアニーなど。そこにスーパー戦隊シリーズの女性戦士たちを含めれば、かなりの数に上るだろう。ただ彼女たちのアクションは、男性ヒーローのそれと本質的に変わらない。同じようなパンチやキックを駆使して敵を倒す。彼女たちは男と同じように戦えると見せることで、ヒーロー番組における存在価値を証明しようとしてきたのかもしれない。

そんな中、期待を持たせるヒロインが登場してきた。それは、スーパー戦隊シリーズの新番組『獣電戦隊キョウリュウジャー』のキョウリュウピンクだ。彼女は複数の敵を相手に、軽やかで女性らしいアクションを見せてくれた。まず1人目の敵には、高くジャンプしてから、まっすぐ振り上げた右足をそのまま落とす踵落とし。そして着地と同時に再び跳び上がり、両サイドの敵2人に開脚キック。踵落しは、膝を伸ばして上げた姿が、チアガールやダンサーのハイキックに似ている。2つ目の技は、もうそのままチアガールの開脚ジャンプだ。楽しそうに「エーイ」と声をあげながら、これらの技を繰り出すキョウリュウピンク。ハリウッドのヒロインのようなクールな美しさとは違うけれど、特撮番組のアクションの新しい方向性を示しているかもしれない。

女性が主人公では男の子に受けない、という心配する人がいる。だけどそれは要らぬ心配というものだ。『サインはV』は男の子も見ていたし、ほかにも『魔法使いサリーちゃん』や『アタックNo.1』、『キューティーハニー』など、男の子に受け入れられたアニメ作品は数多いではないか。ヒロインのアクションによって、特撮ものは新たな地平を切り開くことができる。僕は最近、まじめにそう考えている。

第38回:イカデビルと死神博士と天本英世
2013年03月01日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】ロシア上空の隕石。SF映画のクリエーター達には、大きなインスピレーションを与えたことだろう。それにしても衝撃波だけで、あれだけの破壊力があるとは!
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先日画像が公開された「空飛ぶイカ」には驚かされた。『殺人魚フライングキラー』という映画があったが、この空飛ぶイカもB級アニマルパニック映画の題材になるのではなかろうか。

すでに日本の特撮では、怪獣や怪人のモチーフとしてイカが使われてきた。東宝映画『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大海獣』にはゲゾラという、モンゴウイカの怪獣が登場。他にも『仮面ライダーV3』のイカファイヤーや『超人バロム1』のイカゲルゲ、『ジャイアントロボ』のイカゲラスなどが、テレビ画面の中で暴れまくってきた。

中でも僕の記憶に一番強く残っているのは、『仮面ライダー』のイカデビルだ。ライダーキックを封じて見せ、一度はライダーに勝ったこともあるほどの強さを誇る。ただし、イカデビルが忘れられない理由は他にあった。それは、死神博士の変身した姿だったからだ。死神博士とは、世界征服を企むショッカーの大幹部の1人。たいていの怪人たちは足下にも及ばないほど、怪奇な雰囲気を漂わせていた。このキャラクターとしての方向性は、俳優、天本英世がいたからこそと言っても過言ではないだろう。

顔も体も細身の天本氏は、どことなく骸骨を思わせる風貌をしていた。そして白いスーツに黒いマントという、死神博士の衣装に身を包んだだけで、「怪優」と呼ばれるにふさわしい空気をまとっていた。『仮面ライダー』の撮影ではメークで額に青い血管を浮き上がらせ、下から照明が当てられる。台詞をしゃべる際には、抑制の効いた粘着質の口調。あまりにも怖すぎるという声が当時あったそうで、途中からは演技を抑えるほどだったらしい。

無政府主義者であったという話もあり、それだけ聞くと物騒な感じもしてしまう天本氏だが、当然のことながらファンを大事にしたようだ。サイン色紙には似顔絵のほか、「死神博士」という言葉を入れたというから、それをもらった人はさぞうれしかったに違いない。また、街中ですれ違う人に"死神博士だ"と言われ、"左様"とだけ答えて去っていったという、なんともかっこいいエピソードもある。

ちなみに『仮面ライダー』には、4人の大幹部が登場した。ナチスの生き残りといった風情のゾル大佐が最初で、次が死神博士。まるで三葉虫のコスプレのような地獄大使が3人目。最後が、イギリス王室騎兵隊のようなヘルメットをかぶったブラック将軍。大幹部が交代することで作品世界に変化が加わり、マンネリ化を防いだという意味では、彼らの存在意義は小さくなかった。毎週のように新しい怪人を登場させるだけでなく、こうした変化をもたらすことで番組は2年間、話数にして98話も続いたのだ。

最後にイカデビルについてもう1点。彼の頭部には隕石誘導装置が組み込まれており、隕石を誘導して街を破壊しようという作戦を立てていた。隕石と言えばつい先日、ロシア上空に落下してきたというニュースを思い出す。空飛ぶイカといい、ロシアの隕石といい、まるで"イカデビルをこのブログで取り上げるのだ!"と、死神博士が言っているようではないか。今回の記事は、『仮面ライダー』を盛り上げてくれた死神博士に捧げることにしよう。