明けの明星が輝く空に

Chewing over TOP » 明けの明星が輝く空に » 「2013年11月」一覧

第46回:怪獣への愛はあるか
2013年11月01日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】仕事がらみで、"ライブ&朝食付き皇居ランニング"に参加した。初めての皇居ランだったが、多摩川の方がずっといいと思った。ちなみに、日比谷茶廊でのライブはステキだった。
--------------------------------------------------------------------------------------
先日、数人の仕事仲間が、前回このブログで取り上げた映画『パシフィックリム』について話していた。おおむね肯定的な彼らの感想を聞きながら、「わかっとらんねー、キミたち」と思いつつも、作業中だった僕はそのまま聞き流した。しかし、このブログでは黙っているわけにはいかない。そういう人たちにわかってもらうのが、『明けの明星が輝く空に』の使命なのだから。

ということで今回も、『パシフィックリム』について書こうと思う。この映画は前回触れたように、日本の特撮へのオマージュである。だけど、ゴジラやウルトラマンで育った僕からすると、重要な部分が欠けているように思う。『パシフィックリム』に足りないのは、ズバリ、怪獣への愛だ。愛が足りないから、怪獣が魅力的に描けていない。では、怪獣の魅力とは何なのか?それは、その大きさと恐ろしさがもたらす迫力だ。

実は『パシフィックリム』の怪獣たちは、かなり巨大な生物として設定されている。彼らが襲った市街地の建物と比較すれば、それは一目瞭然だ。怪獣の全身がスクリーンに入りきらないようにするなど、大きさを強調する演出も見られた。それなのに、僕には大きさを感じることはできなかった。

今では主流になった、CG製のモンスターたち。彼らは、スクリーンの中で素早く動き回ってみせる。動きに制約がなくなったのはいいことだけれど、大きさを表現するには逆効果だろう。大きいものは、ゆっくり動いて見えるものだからだ。そういった意味で、CGモンスターと対照的な例として、『ゴーストバスターズ』の巨大マシュマロマンが挙げられる。夜のニューヨークに、突如として現れるあのシーン。「見た目はかわいいのに、あんなデカイものが歩いてきたら怖いよなー」と思わせるような、なんとも言えない迫力があった。

かつて日本の特撮作品では、ハイスピード撮影を使用していた。映像をスローモーションにして、暴れる怪獣や崩れ落ちるビル、港に押し寄せる大波などに、巨大さや重量感を出すためだ。ゴジラがビルを破壊するシーンも、ウルトラマンが怪獣を投げ飛ばすシーンも、スローモーションだからこそ迫力が出る。逆に、もし撮影現場のゴジラを見たら、動きがせわしなくて、「ああ、怪獣王の威厳よ、どこへ?」と嘆きたくなるだろう。撮影現場のゴジラは、『鶴の恩返し』の鶴と同じく、働いている姿を決して見てはいけないのだ。

大きさと迫力を表現するには、動きを遅くすること以外に、人の目線から描くことも重要だと思う。『パシフィックリム』では、ロボットに乗り込んだ人間の目線で怪獣を見ることが多かったが、それでは臨場感に乏しい(注釈)。もっと生身の人間が、怪獣と対峙しなければ。たとえばガメラと並ぶ大映の特撮映画『大魔神』の大魔神は、身長がせいぜい2階建ての家ぐらいしかない。それでも、足音を響かせながら近づいてくる姿は、砦に立てこもった悪人たちの側から見ると、"凄み"と言えるほどの迫力に満ちている。秀逸なのは、顔と同じ高さにある櫓の前に差し掛かった場面。櫓の上には、逃げ遅れた男たち。ふいに立ち止まった大魔神が、ゆっくりと顔をそちらに向ける。このシーンで僕は、まるで自分が大魔神に見つかったような錯覚に陥って、背筋がゾクゾクしてしまう。

『パシフィックリム』には、怪獣の迫力を演出する上で、惜しいなと思った箇所がある。市街地を守る巨大な壁を、怪獣が突破するシーンだ。残念なことに、壁は実にあっけなく壊されてしまう。ある程度攻撃に耐えてこそスリルが味わえるし、強固なところを見せてからのほうが、それを破壊する怪獣の恐ろしさも強調できるだろう(僕はこれを"城壁効果"と呼ぶことにした)。その点、このブログの第44回で触れた漫画『進撃の巨人』は、町を守る城壁の存在が生きている。城壁を破って町中に人食い巨人が侵入してきたときの戦慄。城壁のおかげで安全だったはずの空間が侵されるわけだから、恐怖感は倍増する。SF映画の古典『禁断の惑星』には、鋼鉄の壁が怪獣の力でどんどん変形していく場面がある。アフリカ象ぐらいの大きさしかないミニ怪獣だったが、その10倍はありそうな『パシフィックリム』の怪獣たちより、怖さという点ではずっと上だった。

冒頭に触れた仕事仲間たちが、もし今回のブログ記事を読んだら、果たしてどういう感想を持つだろうか。チャンスがあれば、読んでもらうよう言ってみることにしよう。

注釈
実は『パシフィックリム』にも、芦田愛菜ちゃん演じる少女が怪獣に追われ、物陰に隠れるシーンがあった。恐怖を演出するにはもってこいの状況だけど、なぜか『大魔神』ほどのスリルは感じなかった。「もしかしたら愛菜ちゃんだけ見ていて、映像全体を見ていなかったせいじゃいないの?」と突っ込まれたら、反論はできないかもしれない...。