明けの明星が輝く空に

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第45回:怪獣は海からやって来る
2013年10月11日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】ウルトラセブン展限定ポスターが届きました。そこには2/20の文字が。惜しい、実に惜しい。1/20だったらなあ。でもイチバン羨ましいのは、7/20をゲットした人です。
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この夏に公開された映画『パシフィックリム』には、クライマックスと言えるようなものがない。巨大ロボットがKAIJU(=怪獣)と戦うこの映画は、難しい理屈なしに楽しめるというので、ネット上のレビューでは好評だ。だけど、最初から最後まで、「ドッカーン、ギャオー、バリバリバリ」が続いてメリハリがない。どこで盛り上がったらいいのか、サッパリわからない映画だった。

監督は、日本のアニメや特撮を見て育ったギレルモ・デル・トロ。来日した際には、お台場のガンダム像に両手を合わせて拝んだという人物だ。そんな監督本人が「日本へのラブレター」と呼ぶ『パシフィックリム』。雑誌には、「日本のアニメ、特撮へのオマージュ」と紹介される。メリハリ云々はさておき、日本の特撮スピリットは受け継がれていたのだろうか。

『パシフィックリム』の怪獣たちは、異空間とつながる海溝から現れ、世界各地の都市に上陸する。中には鯨やワニのような姿の水棲タイプもいるが、陸上タイプも少なくない。つまり、彼らが海の中からやって来る必然性はないのだ。宇宙人に送り込まれてくる設定なのだから、瞬間移動装置でも使っていきなり街中に出てきてもいいはずなのに・・・。

海から出現する日本の特撮怪獣はいろいろいる。第44回で紹介した『サンダとガイラ』のガイラは、海から現れて人々を襲った。モスラの幼虫も、南の島から海を泳いで渡ってくる。そして忘れてはいけないのがゴジラだ。ゴジラは繰り返し海から現れ、最後は東京を焼き払って火の海にした。

『ゴジラ』は、デル・トロ監督も当然見ただろう(注釈1)。海に囲まれた日本において、ゴジラに代表される出現経路は、民俗学的観点からすると興味深いことらしい。というのも、日本の民話や伝承には、海の彼方から来る異形の神々が存在するからだ。例としては、沖縄のアカマタとクロマタが挙げられる。恥ずかしながら僕は知らなかったのだが、東北のナマハゲも海からやって来るらしい。

アメリカ映画でもっとも有名なモンスター、キングコングも、南の島から海を越えてアメリカ本土へとやって来る。ただしそれは、人間に捕らえられ、船で移送されたにすぎない。『ロストワールド』のティラノサウルスも、その点は同じだった。やっぱり、自力で泳いで、海からある日突然出現する怪物と、ただ運ばれてくる怪物とでは怖さが全然違う。民俗学的視点はともかく、デル・トロ監督も海からやって来るゴジラに直感的に不気味さを感じ、自分の作品で再現しようとしたのかもしれない。

ただし特撮ファンとして、とくにウルトラシリーズのファンとしては、大いに不満が残る点がある。それは海面が光らないことだ。たとえば『ウルトラマン』で怪獣が海から出現するとき、海面がピカッピカッと光る。怪獣が光を発しているわけではない。海中で爆発が起きているわけでもない。要するに、設定としては何もない。海面が光るのは、純粋に演出上の効果のためだ。

リアリズムからすれば、これほどナンセンスな描写もないだろう。ただ、光る海面にはなぜか説得力があったし、当時の僕らはそれを自然に受け入れていた。大人になったいまも、「あれは科学的に説明がつかない」などと、無粋な突っ込みを入れる気は起きない。ファンのひいき目というのもあることは否定しない。でも、きっと『ウルトラマン』の世界では、自然な現象だったのだ。怪獣というこの世のものではない存在が出現するとき、この世のものではない現象が起こる。少なくとも、そう感じさせる演出だったのだ(注釈2)。

外国の文化を学ぶことで日本の文化を再発見することがあるが、アメリカのモンスターと日本の怪獣の関係にも同じことが言えるかもしれない。あまり面白そうだと思わなかった『パシフィックリム』も、実際見てみれば興味深い発見があった。もっといろいろ研究を進めれば、比較文化学ならぬ比較怪獣学なんて学問の成立もあるかも?学会設立の折りには、ぜひデル・トロ監督にも参加してもらいたい。

★注釈★
1)デル・トロ監督は、『パシフィックリム』を本田猪四郎とハリーハウゼンに捧ぐとしている。本田猪四郎は『ゴジラ』の監督である。ちなみにハリーハウゼンは、ストップアニメーションで数々のモンスターをスクリーン上に現出させたことで有名。
2) 当ブログ『明けの明星が輝く空に』の第23回、「存在しないはずの音」で触れた効果音の数々も、これと共通するものがある。