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- 映像翻訳を正しく定義する
映像翻訳という言葉への注目度が年々高まっています。背景には、衛星放送やケーブルテレビ、DVD、インターネット動画の配信の発達などを通じて、世界中の映像コンテンツを誰もが気軽かつ大量に視聴できるようになった社会の大きな変化があります。映像翻訳は、「語学の習得に努力し、同時に世界中の映像コンテンツを自らも楽しみ、伝えたい」という人が担うべき新たな職能として広がっているのです。
日本映像翻訳アカデミーは、そのような映像翻訳業界発展の一翼を担ってきたと自負しています。それでもなお、「映像翻訳は映画の字幕やドラマの吹き替えを作る仕事ですよね。限られた少数のプロがいて、目指してもほとんどの人が弟子で終わるか、なれない、“憧れ商売”ですよね」というような声を聞くことがあります。
確かにそうした時代もあったでしょう。また、映像翻訳の世界に関わることのない人がそのように考えるのも仕方がないことでしょう。 まだまだ私たちの啓蒙活動が足りていないと、反省するばかりです。
しかし、映像翻訳の世界に興味を持ち、プロを目指して学習してみようと考えている方は要注意です。 「とにかくスクールに通えば、あるいはその世界の関係者の話を聞けば、何かが見えてくる」というのでは、 プロになれる確率はそれだけで下がってしまいます。あるいは、しなくてもよい遠回り(時間・費用)をすることにもなりかねません。
映像翻訳者を目指すべき第一歩目は、「映像翻訳とは何か」を正しく定義し、 本当に自分が目指すべき職能であるかを明確にすることから始まります。
日本映像翻訳アカデミーでは、映像翻訳をこのように定義しています。
多様化する海外映像素材を他言語化して、
不特定多数の視聴者に伝えるための技術
一読ではわかりにくい表現ですが、実はこの定義の中に重要なポイントが隠されているのです。
定義では、映像翻訳を必要とする対象を「多様化する海外映像素材」としています。つまり、映画やドラマ、ニュース、情報番組、ドキュメンタリー番組、企業・商品のプロモーションビデオ、あるいはテレビゲームも含め、“動画素材は、すべて映像翻訳者の仕事の素材である”ということ。もちろんすべてを必ずやれということではありませんが、学習を始める段階から「自分は映画を扱う」「自分はスポーツを扱う」などと決めつけることは、社会ニーズや需要のことを考えない、随分わがままな発想だと言えます。
また、映像翻訳の作業はほとんどの人にとって初めての経験です。当初は「ドラマをやってみたい」と言っていた受講生が、ドキュメンタリー番組の翻訳演習を経験して大好きになったというケースもあります。さらに、自分では「スポーツは苦手」と思っていた受講生が、実際に体験してみたら高い評価を得て、その時初めて適性に気づいたといったケースも珍しくありません。
つまり、学習の段階ではジャンルを絞らず、意識的に幅広い素材に対応することが、短期間で効率的にプロになる確率を高めるのです。
また、定義が示す「映像翻訳者に必要な守備範囲の広がり」は、扱う映像ジャンルだけでなく、「日本語化の技術(手法)」にも当てはまります。
映像翻訳でよく知られる手法は、大きく分けて「字幕」と「吹き替え」ですが、同じ字幕でも映画やドラマなどのセリフ劇と、アドリブが多い情報番組やインタビュー番組では、字数制限の考え方が違う場合もあります。同じジャンルの映像でも、視聴者想定が変われば、使える漢字が違うこともあります。
吹き替えとひと言で言っても、ドラマや映画で用いられる「あたかも話し手が日本語で話しているように、口の動きにまで合わせて声優が声の演技を当てる翻訳(リップシンク)」と、ニュースや情報番組で用いられる「原音を薄く残したまま、その上から日本語の音声を重ね、声の演技よりも日本語情報の量を重視した翻訳(ボイスオーバー)」の2種類に大別できます。
「自分は字幕派」、「吹き替えが得意」などと学習段階で決めつけるのは、プロデビューの機会を自ら減じることになります。その時々の求めに応じて、いずれの手法でもアウトプットできるのが、新たな時代の映像翻訳者なのです。
この定義に従い、限られた学習期間内で、できる限り網羅的な素材演習とそれに応じた手法の学習を行い身につけることができれば、その都度、新たに生じる映像翻訳需要に応えられる可能性が高い、つまり、プロになれる確率が上がるのです。「映画字幕翻訳者」と名乗る人に、ドキュメンタリー番組を吹き替えで放送しようと考えている事業者は、声をかけることができません。しかし、「映像翻訳者」であれば、その仕事を受注する資格があると見なされるのです。
ジャンルや手法を絞るのは、映像翻訳者になって4、5年経ち、基礎的な力を認められてからがいいでしょう。当校から巣立った多くの修了生が、この考え方が間違っていないことを証明しています。
翻訳原稿には「100%の正解」がありません。特に映像翻訳の場合、映像翻訳者の演出やクリエイティヴな感覚といったものが原稿の良し悪しを左右するなど、指標として明示するのが困難な要素があるのは事実です。
しかし、だからといって「ただ翻訳の演習を繰り返し、目の前の指導者の評価や好みだけで実力を判断するようなプログラムであってはならない」と、日本映像翻訳アカデミーは考えています。そこで、当校では受講生にとっては習得目標となり、指導側にとっては平等な評価基準となり得る「6つの資質」を設定しています。
1-ソース言語解釈力
2-翻訳力
3-取材・調査力
4-ターゲット言語応用表現力
5-コンテンツ解釈力
6-ビジネス対応力
もちろんこれらの資質の一つひとつには、より仔細な定義と評価のポイントや基準があります。 それらに関しては、当校が随時開催している「オープンスクール」などで詳しくお話ししています。
学校説明会というと、入学して頂くためのセールストークの場と考えられがちですが、日本映像翻訳アカデミーでは説明会のほとんどの時間を「映像翻訳概論」に当てています。学校代表が自ら解説を担当し、学ぶか学ばないかを決める前に、まずは「映像翻訳の実像を正確に理解して頂く」ことを目的に開催しています。概論を聞くことによって「映像翻訳者は自分の目指す道ではない」と判断できたら、それはそれで十分に意義のあることです。
開校以来、日本映像翻訳アカデミーを訪れて「映像翻訳概論」に耳を傾けて頂いた人の数は、5,000名を超えました。
興味を持たれた方は、ぜひお気軽に足を運んでください。