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【悪役を語るコラム】サモ・ハンが初の悪役に挑戦『SPL/狼よ静かに死ね』
2013年03月15日

【written by 鈴木純一(すずき・じゅんいち)】映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
【最近の私】谷垣健治さんの「アクション映画バカ一代」を読みました。香港&日本アクション映画への情熱にあふれる、熱い1冊です。
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かつてサモ・ハン・キンポーと名乗っていたサモ・ハンは、現在の香港映画界を牽引している俳優の1人だ。1973年の『燃えよドラゴン』でブルース・リーと共演し、以降は『燃えよデブゴン』シリーズで人気者に。他にもジャッキー・チェン、ユン・ピョウ共演の『スパルタンX』『五福星』を監督し、さらに『霊幻道士』を製作してキョンシー・ブームを起こすなど、プロデューサーとしても活躍している才人だ。気は優しくて力持ち、太っているけど身軽な動きのキャラクターを演じることが多かったサモ・ハンだが、その彼が初めて悪役に挑んだのが、2005年の『SPL/狼よ静かに死ね』である。

サモ・ハンが演じるのは黒社会のボス、ポーだ。ポーは自分に不利な証人がいれば、護衛の刑事もろとも抹殺を命じる恐ろしい男。家族を愛する良き夫という一面も持っているが、邪魔者には厳しく、自分の組織に潜入したおとり捜査官をゴルフクラブで殴打する。冷酷にビシッ!バシッ!とクラブを撃ち続ける姿に、凶暴さがにじみ出ています。

そんなポーを捕えようと必死なのがチャン刑事(サイモン・ヤム)率いる捜査班。おとり捜査官を殺されたチャン刑事は、殺人の証拠をねつ造してまでポーの逮捕に踏み切ろうとする。そしてついに、チャン刑事たちがポー逮捕に向かうと、「今日は子どもの生後1ヵ月の祝いの日だ、邪魔するな!」と手錠をかけようとする刑事にパンチ!これを皮切りにポーは大暴れし、刑事たちが3人がかりでやっと取り押さえるのだった。しかし、無謀な捜査を知った正義感あふれる刑事マー(ドニー・イェン)は不安を覚える。マーの予感は的中。釈放されたポーは、捜査班のメンバーに殺し屋を差し向けて復讐を始めるのだった...。

映画の終盤、マー刑事はポーと一騎打ちを演じる。マーを演じるドニー・イェンは、中国では"宇宙最強"と呼ばれるアクション俳優。香港映画界を背負ってきた重鎮サモ・ハンにとって、不足のない相手と言える。そしてここに、宇宙最強ドニーVS香港映画の伝説サモ・ハンという、夢の対決が実現するのだ。

この場面ではキックやパンチ、タックルや寝技、関節技などを駆使し、痛みをともなう激闘シーンが連続する。これぞリアルなアクション、香港映画屈指のファイトシーンと言っても過言ではない。サモ・ハンは本作でも巨体に反して身軽な動きを披露。撮影当時は56歳だったサモ・ハンですが、まったく年齢を感じさせません。何度観ても素晴らしいシーンです。

そして、2人の戦いは、衝撃的な終わりを迎える。"因果応報"ともいえる終幕だ。ポーは言う。「天は公平だ。過ちを犯せば報いがある」と。本作で重要な意味を持つ言葉だ。『SPL』は"目には目を"の終わりなき復讐を、激しいアクションと濃厚な人間ドラマで描いた傑作である。そして、サモ・ハンが初めて演じた悪役っぷりも非常に大きな見どころとなっている。