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第14回:盗まれた子供たち(Stolen Children)のトゥルーストーリー
2011年03月18日

【written by メイソン千恵(めいそん・ちえ)】オーストラリア人の夫と共にブリスベンに在住。現在はオーストラリアの先住民、アボリジニを支援する団体「ノワカ」で活動中。驚きや感動を抱きながら、独特の文化と生活に触れている。
【最近の私】日本での大災害のことは、オーストラリアのメディアでも毎日報道されています。海外のニュースでは異例のことであり、映像を見るたびその被害の大きさにただ愕然とするばかりです。こちらからは募金をすることぐらいしかできず無力さを感じますが、一刻も早い復興と、もうこれ以上の災害が起こらないことを心からお祈りしています。
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3年ほど前、ある本を読みとても衝撃を受けました。その本は、第6回でお話した"盗まれた子供たち(Stolen Children)"の1人であるルース・ヘガティー(Ruth Hegarty)さんによって書かれたもので、彼女が14歳まで育ったドミトリー(収容施設)での生活が綴られています。その本の題名は「Is That You, Ruthie?」ルースさんはこれまでに2冊の本を出版しており、これは彼女が最初に書いた本です。以前から"盗まれた子供たち(Stolen Children)"のことは知っているつもりでしたが、この本を読み、自分がどれほど無知であったかということに気付かされました。当時ドミトリーでどのようなことが行われていたか、そこで過ごした人々がどのような体験をしていたかが詳しく書かれています。

この本を読んだ数ヶ月後、ブリスベンの図書館で"Author & Writer's week "というイベントが開催され、そこでルースさんにお会いすることができました。当時78歳の彼女はステージで「Is That You, Ruthie?」に関するスピーチを行っていました。スピーチのあと、運よく彼女と少し話すことができ、その後も何度かノワカを通して会う機会があり、今ではとても親しくしています。ルースさん(私は Aunty Ruthieと呼んでいます)は今年2011年の4月に3冊目の本を出版するそうなので、今回は彼女と彼女の本について少し紹介したいと思います。

ルースさんは、1929年生まれのアボリジニの女性。4歳のときには母親から引き離され、14歳までをドミトリーで過ごしました。ドミトリーでの生活はまるで刑務所のようであったと彼女は言います。親から引き離された幼い子どもたちはみな、同じ服を着せられ、頭を丸刈りにされたそうです。そして何かほんの小さな違反をするたびに鞭で何度も打たれました。その鞭は刑務所の囚人に使われていたものと同じものであったそうです。少年たちには下着は与えられず、ベルトやサスペンダー代わりに古い服の切れ端や、ボロ切れなどを使っていました。ベッドもまともなものではなく、床に小さなマットのようなものを敷いて寝ており、おねしょをすれば、そのまま濡れたマットで何日も寝なくてはいけなかったそうです。ルースさんは当時のことをときどき話してくれます。「Is That You, Ruthie?」の中に書かれているストーリーは自分自身の経験であるとともに、ドミトリーで生活を送ったすべての子供たちの声でもあると彼女は言います。母親や家族から引き離されたことによる心の痛みや悲しみ、そして家族から受けるはずの愛情の代わりに受けた厳しい規律や不公平な扱い......。今でも当時のことは決して忘れられないそうです。ただ、そのような状況の中で共に育った友人たちとの絆は強く、彼らはみんな自分の兄弟、もしくはそれ以上の存在だとルースさんは語っていました。その友人の1人、ダルシーからの突然の電話で彼女は、「Is That You, Ruthie?」を書くことを決意したそうです。

ルースさんは、14歳までドミトリーで過ごした後、家事使用人として裕福な白人家庭へと送られました。その後、22歳のときにアボリジニ男性と結婚し、8人の子どもを授かりました。第2冊目の本「Bittersweet journey」は、ルースさんが結婚したばかりのころのストーリーです。その頃にアボリジニだからという理由で受けた政府の不平等な扱いの下で、いろいろな問題と向き合ってきたルースさんの生活が綴られています。

また彼女は過去30年以上の間、ボランティアで若者やお年寄りのためのさまざまなプロジェクトに携わってきました。ルースさんは81歳の今でも「アボリジニコミュニティを良くするために何かできること」をいつも探し求め、実践しているアボリジニ活動家です。過去のつらい思い出や経験を活かし、人々の役に立ちたいという姿勢を常に忘れない彼女を私はとても尊敬し、応援しています。
 まさに波瀾万丈という言葉がふさわしいルースさんの人生。これらの本には彼女の人生のストーリーが綴られています。興味のある方はぜひ読んでみてください。

Is That You RuthietestIs That You Ruthie.jpg「Is That You, Ruthie?」
1989年 "Queensland premier's Literary Awards"受賞
http://www.amazon.com/That-You-Ruthie-Ruth-Hegarty/dp/070223415X






Bittersweet Journey.jpg「Bittersweet Journey」






第13回:アボリジニと日本人の意外な歴史
2011年02月17日

【written by メイソン千恵(めいそん・ちえ)】オーストラリア人の夫と共にブリスベンに在住。現在はオーストラリアの先住民、アボリジニを支援する団体「ノワカ」で活動中。驚きや感動を抱きながら、独特の文化と生活に触れている。
【最近の私】最近、夜、散歩をしていると、ポッサム(オーストラリアのフクロギツネ)をほぼ毎回見かけます。電線を器用に渡り、木と木を行き来しています。数日前は、親子を発見。ミニポッサムがお母さんの背中にへばりついていてかわいかったです。
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先日ノワカでThursday Island(木曜島)出身の女性、ジェニーと話す機会がありました。木曜島はニューギニア島とオーストラリアの間、トレス海峡の南に位置するオーストラリア領の島。木曜島には多くの先住民(アイランダー)の人々が住んでおり、ジェニーもそのうちの1人です。彼女の話によると、木曜島には大勢の日本人が住んでいるとのこと。しかもほとんどが一時的な滞在者ではなく、代々そこで暮らしている、元真珠貝ダイバーたちの家族だということでした。

1870年代頃から、真珠貝を採集する多くの日本人ダイバーがオーストラリア北部および北西部に出稼ぎに来ました。そのままオーストラリアに根を下ろした人々もいたため、現在もこれらの地方で多くの日本人が暮らしているのだそうです。

ジェニーの友人の日本人にも、父親が元真珠貝ダイバーでアボリジニ(アイランダー)と結婚し、そのまま木曜島に住み続けている人がおり、他にも日本人とアイランダーを両親に持つ人を大勢知っていると言っていました。「If you walk around there, they think you are one of the locals.(もしあなたが木曜島を歩いていても、みんなあなたのことをローカルだと思うわよ)」ということです。以前、私は西オーストラリア州ブルーム(Broome)の日本人ダイバーに関する本を読んだことがあったので、ブルームに日本人が多いことは知っていましたが、木曜島のことは初耳でした。

かつてオーストラリアで真珠をとる目的は、高級ボタンの材料として使われていた貝殻を取るためでした。60年代には、日本から技術を導入して真珠養殖が始まり、それが新たな基幹産業として成長していったそうです。真珠の採取は苦しく危険な作業でしたが、日本人はその優れた能力と根性でよく知られ、高い評価を受けていたそうです。当時のオーストラリアでは、白豪主義(*)の影響により、白人以外の人種の入国が厳しく規制されていましたが、こうしたことから日本人ダイバーだけは例外として受け入れが続いていたのです。彼らは地元の人々(その多くはアボリジニやアイランダーなど先住民)との交流も深く、みんなで協力し合い作業をしていたそうです。

木曜島やブルームには、今でも採貝作業中の事故などで亡くなった人たちの日本人墓地が残っています。この真珠採集の長い歴史を記念し、ブルームでは、年に1度「真珠祭(Shinju Matsuri Fsttival)」というお祭りが開催されています。今年で40年を迎えるこのお祭りは、今やブルーム最大の文化イベントとなっているそうです。(http://www.shinjumatsuri.com.au/index.html

このように日本人と木曜島やブルームの人々とは歴史上、深いつながりがあります。ジェニーの話では、不当な扱いに耐えながらその時代を共に生き抜いてきた日本人とアボリジニの人々は、深い絆で結ばれていたということです。

マリーとマサトラ.jpg私が以前読んだ、ブルームでアボリジニの女性と結婚した日本人ダイバーの本を紹介します。もし興味があれば読んでみてください。

「マリーとマサトラ--日本人ダイバーとアボリジニーの妻」 中野 不二男 (著)
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4163408703.html



*白豪主義:1901年〜1973年までオーストラリアで施行された白色人種以外の移民を制限しようとする白人第一主義政策のこと。この政策により白人以外の有色人種は入国を拒まれ、すでにオーストラリアで暮らしていた人々も劣等な人種として不当な扱いを受けました。

第10回:超オススメのアボリジニ映画「Samson and Delilah」
2010年11月26日


【written by メイソン千恵(めいそん・ちえ)】オーストラリア人の夫と共にブリスベンに在住。現在はオーストラリアの先住民、アボリジニを支援する団体「ノワカ」で活動中。驚きや感動を抱きながら、独特の文化と生活に触れている。
【最近の私】Coming soon...
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先日「Samson and Delilah(サムソンとデライラ)」というアボリジニ映画をDVDで観ました。実は、この映画を観るのは劇場を含め、これで3回目。私は普段あまり映画を繰り返して観るほうではないのですが、これだけは本当に何度観ても素晴らしいと思える作品です。

2009年に公開されたこの映画は、カンヌ国際映画祭カメラ・ドールや、米国アカデミー賞外国語映画賞など、数々の名誉ある賞を受賞しました。監督はWarwick Thornton(ワーウィック・ソーントン)。オーストラリアでも数少ない、アボリジニの映画監督です。彼にとって同作品は、初めての長編映画でした。舞台となったのは、監督の出身地でもあるオーストラリア大陸の中央部、Alice Springs(アリススプリングス)。この地域には多くのアボリジニ・コミュニティがあり、現在でもほとんどの人々が独自の言語を話します。そこで暮らす、十代の男女の生き様を描いた物語です。

ガソリンを吸ってハイな気分になるばかりの日々を送っているサムソンは、祖母の看病をして暮らすデライラに恋をする。ある日、デライラの祖母が亡くなり、それをきっかけに2人はアボリジニ・コミュニティを抜け出す。しかし、現実は厳しく、2人は、さまざまな障害にぶち当たる。住むところもなく、橋の下での生活を余儀なくされた2人は、生活のため、万引きをして飢えをしのぐ毎日を送る。デライラは小銭を稼ぐため絵を描き売ろうとするが、見向きもされず、サムソンは、現実逃避のため、さらにガソリンを吸い続ける。そんな中、デライラに更なる不幸が訪れる......。

この地域出身のワーウィック監督だからこそ描けた、アリススプリングスでのリアルな生活。アボリジニの人々が直面する厳しい現実が描かれており、胸が痛くなるような内容にもかかわらず、最後に感じるのは2人のたくましさと愛情です。

主演の2人、サムソン役のRowan McNamara (ローワン・マクマナラ)とデライラ役のMarissa Gibson(メリッサ・ギブソン)も、このアボリジニ・コミュニティ出身。なんと2人は、今回の映画のためだけに選ばれたまったくの素人で、本映画が彼らのデビュー作だったようです。この2人の間にはほとんどセリフがなく、それがこの映画の大きな魅力となっています。そのため、英語や、彼らの言語が理解できなかったとしても、十分楽しむことができると思います。もし興味があれば、観てみてください。絶対オススメです。

「Samson and Delilah」だけでなく、素晴らしいアボリジニ映画は他にもたくさんあります。ただ、過去に日本で公開されたものとしては、以前、第6回でも紹介した「Rabbit-Proof Fence(裸足の1500マイル)」を含め、ほんの数本しかないようです。

以下に、その他のアボリジニ映画を少し紹介します。将来、日本でも、もっとアボリジニ映画が紹介されるようになれば嬉しいです。

1:「Samson and Delilah」

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公式サイト(英語)
「Samson and Delilah」プレビュー





2:「Ten Canoes」 
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公式サイト(英語)
作品紹介(日本語)





3:「Beneath Clouds」 
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IMDb(英語)
作品紹介(日本語)





4:「First Australians」
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2010年4月より毎週日曜日に放送されていたテレビ番組をまとめたDVD。以下のサイトからも視聴可能。今まで明かされることのなかったアボリジニの悲惨な過去が、すべて語られています。
公式サイト(英語)