ホラーを堪能する2本!『スペル』&『母なる証明』 by Junichi Suzuki
2011年01月26日
ホラーを堪能する2本!『スペル』&『母なる証明』
「小さな不親切」と「誰も信じるな」が未知の恐怖へと誘う!
まずは『スパイダーマン』シリーズを撮ったサム・ライミの最新ホラー『スペル』から。いきなりのテロップが「劇場内悲鳴厳禁!鑑賞後の放心注意!」、「世界映画評No.1サイト『ロッテン・トマト』鑑賞後満足度驚異の92%」。続いて駐車場で女性が車に乗り込むシーンが怖い。彼女の目の前に現われたのは・・・・・・×××な老婆である。
スパイダーマンの監督がホラーなんて、と思う人もいるかもしれない。しかし、サム・ライミはあの『死霊のはらわた』(1985年日本公開)で監督デビューした、ホラーのスペシャリストである。ホラー映画のお手本とも称される同作にショックを受けてこのジャンルの魅力に目覚めた人(自分を含む)なら、「お帰りなさい!サム・ライミ!」と叫びたくなるはずだ(大袈裟か)。
主人公クリスティーンはどんな老婆の姿を見て恐怖に震え上がったのか?ナレーションはこう言う。
「きっかけは、ほんの小さな不親切だった」
銀行員のクリスティーンはローン返済の期限延長を懇願する老婆の訴えを断った。そんな"小さな不親切"が逆恨みに発展、老婆から呪いの言葉(スペル)をかけられてしまうのだ。
「呪い」という言葉で思い出す映画は、日本の(日本製ホラー映画は世界ではJホラーと呼ばれている)『呪怨』である。激しい怨みを持って死んだ者の呪いがたまたま関わった人たちを恐ろしい目に遭わせる作品だ。サム・ライミは、自らはスパイダーマンを手掛けるかたわら、設立した製作会社のゴーストハウスピクチャーズで、実はしっかりとホラー映画を作っていたのだ。『呪怨』のハリウッド版リメイク『JUON/呪怨』と、続編の『呪怨 パンデミック』は同社を通じてプロデュースしている。
そうか、"呪い"に関するこだわりは彼の中で生き続けていて、『スペル』と『呪怨』は血縁関係にあるということだ。("血の縁"と書くとホラーな感じがしませんか)
予告編に戻ろう。呪いをかけられて以来、老女に襲われる夢を見て怯えるクリスティーン。彼女の恋人(『ギャラクシー・クエスト』のジャスティン・ロング)は「ただの夢さ。どんな時も君を守る」などとカッコイイことを言っているが、私の経験から言えば、ホラー映画でこんなセリフを口にする男が生き残る可能性は、極めて低い。(当たってるか?)
ここから予告編は怒涛の展開。家のドアをガンガン叩かれ、空中に吊り上げられたり、線路に突き落とされたりと、クリスティーンは呪いの無間地獄に落ちていく・・・。そしてテロップ――
「先読みを許さない13のショック」
13回。多いのか、少ないのか。そして雷鳴がとどろく中、クリスティーンが墓地の前に立つ。おそらくこの墓地が呪いを解くカギとなっているに違いない。
危険に決まっているから自分なら絶対に行かない場所(夜中の森、空き家、無人の工場など)に、主人公がなぜか独りで出向いちゃう展開は、ホラー映画の"お約束"である。クリスティーンは絶叫する。が、予告編では"ピー"と音が入って彼女が何と言ったのかは分からない。
劇場に行って確認してきます。その前に予告します。『スペル』は絶対に怖い映画になっている。
もう1本は、ポン・ジュノ監督の『母なる証明』だ。ジュノ映画は『殺人の追憶』を観てから欠かさず観ている。『グエムル ―漢江の怪物―』以来、長編としては3年ぶり、待望の新作だ。
予告編は、まず母親が草をザクリと刈るシーンから始まり、彼女の顔に光が射す。"ザクリ"と"光"だけで、すでにただならぬ空気が漂い始める。次いで母親と息子のトジュンの平和な生活が描かれる。トジュンを演じるウォンビンは『ブラサーフッド』以来5年ぶりの映画出演だ。
そして起こる女子高生殺人事件。殺害現場の描写は『殺人の追憶』で女性の死体が発見されるシーンに匹敵するおぞましさである。警察が捜査を開始するが、トジュンが容疑者として逮捕されてしまう。息子の無実を訴える母親に、刑事らしき男が「捜査は終わった」と言う。しかし、謎の男から「誰も信じるな。自分の手で犯人を探せ。殺された少女の周辺がカギだ」と告げられる。彼女の孤独な真犯人探しが始まった・・・。
韓国映画の警察捜査といえば、『殺人の追憶』や今年公開された『チェイサー』を観た時にも感じたのだが、いい加減で見当違いな捜査にはかなりイライラする。だからきっと、本作でも警察は当てにはならない、はずだ。
予告編はじわじわと緊張感を増していく。殺された少女の携帯電話に写っていた男、目を見開くトジュン、隙間から覗く男・・・などの短いショットの連続。「息子の目は芸術品」という言葉とトジュンが片方の目を手で隠すシーンに事件の謎を解く鍵がありそうだ。
「衝撃の真実が待っている」というテロップだけでも期待度のハードルを上げているが、「ヒッチコックに匹敵するミステリー」、「サスペンスを超えた壮大な人間ドラマ」など、これでもかとこちらを挑発する。サスペンスの枠は超えていると言うが、ヒッチコック作品については超えることなく"匹敵する"と、謙虚だ。
予告編のラストは母親が息子の名前を叫ぶシーン。こちらは"ピー"ではなくはっきりと聞き取れる。
予告します。『母なる証明』は絶対にミステリー映画の傑作になっている。
⇒今回注目した予告編
『スペル』と『母なる証明』
★『スペル』(Drag me to Hell)
監督:サム・ライミ
脚本:サム・ライミ、アイヴァン・ライミ
出演:アリソン・ローマン、ジャスティン・ロング
製作国:アメリカ
日本公開:2009年11月6日より公開
『スペル』サイト:http://spell.gaga.ne.jp/index.html
★『母なる証明』(Mother)
監督:ポン・ジュノ 脚本:ポン・ジュノ、パク・ウンギョ 出演:キム・ヘジャ、ウォンビン、 製作国:韓国 日本公開:2009年10月31日より公開中
『母なる証明』サイト:http://www.hahanaru.jp/