やさしいHAWAI’ I

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第12回:ふるさとの味? 巨大わらび"カクマ"
2011年01月27日

毎年のことだが、12月の半ばを過ぎると、年末年始の支度で気忙しくなる。私の生まれ故郷秋田では年越しの夜にご馳走を出す。(秋田生まれではあるが、私の体に流れている血は"ハパ・ハワイ"と思っている・・・"ハパ"はハワイ語で半分という意味)。かつて祖母の家では二の膳付きのご馳走が並んだ。それが忘れられなくて、我が家でもテーブルにいろいろと料理を並べて紅白歌合戦を見るのが毎年の恒例になっている。そして除夜の鐘が近づくと年越し蕎麦。翌日はおせち料理を並べ、お福茶をいただいて新年を迎える。もちろんお雑煮は欠かせない。

昨年末、ハワイのヒロにいるジョージ・ミツダの奥さん、エミからメールが届いた。ジョージはヨコヤマさんのすぐ下の妹、故ミツダさんの長男で、ヨコヤマさんの甥の中では最年長者。現在は70代半ばぐらいだと思う。ヨコヤマさんが高齢になり、一族の中心になるのが少し大変になった頃から、彼が代わりに一族の取りまとめ役になっていた。娘が2人、息子が1人。全員結婚をしてそれぞれに子供がいる。一族が集まるとなると、ジョージの従妹たちの家族など、総勢20人近くなる。エミはジョージのサポート役として、ことあるごとに忙しい日々を送っている。

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〔中央奥にいる2人がエミとジョージ夫妻。その左手前が長女ロシェル夫妻、右手前が次女ロナ夫妻、一番左がヨコヤマさんの妹の一人シマダさん〕

エミのメールには例年のごとく、ハワイの日系人の年末年始のあわただしい様子が記されていた。20人も集まるのだから、料理だけでも大変な準備が必要になる。


"ニューイアー・イブにはソバを食べます。翌日の新年の朝はまず一家そろってゾーニを食べ、午後3時ごろからニューイヤーパーティーが始まります。持ち寄りですから、今年はジェリー(ジョージの従妹)はコーリアン風チキンマカロニサラダ、ジャン(ヨコヤマさんの三女、ジョージの従妹)はチリとソバのサラダ、ロナ(ジョージの次女)はロングライス入りのチキン、ロシェル(ジョージの長女)はオシズシを持ってくる予定です。私はモリモノ(盛り物)ホームメイドのカンテンとヨーカン、そしてカルアポーク(ハワイの豚の蒸し焼き)とハムを焼いたもの。ニシメとトーフスープ、それにダイコンナマス。例年だと尾頭付きのニザカナ(煮魚)を作りますが、昨今はサシミと共に魚の価格が上がり、今年は省略です。25年間続けたモチツキも休みました。"

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〔「Hawai'I's Best Local Dishes」に載っている料理。左が"Nishime"煮しめ。日本の煮しめそのまま。右の右下は"Lomi Salmon"生鮭、トマト、タマネギを使った私の大好きなハワイ料理〕

それにしても実にインターナショナルなメニューだ。いかにも"人種のるつぼ"といわれるハワイらしい。韓国風、エスニック風、ハワイ風、そしてもちろん日本風。私がハワイにいた頃は、このほかに必ずカクマという料理が出された。これは、巨大シダの新芽を煮た物。人の顔ほどもあろうかと思われるこのシダは、ボルケーノ地帯のいたるところに群生している、タカワラビ科のハワイ特有の植物だ。ハワイ名はハプ・ウ(Hapu'u)というが、ハワイの日系人はこれを"ワラビ"と呼ぶ。葉が成長して広がると、まるでジュラシック・パークの恐竜ティラノサウルスが出てきそうな、原始を思わせる光景になる。新芽は茶色のベルベットのような柔らかい毛に覆われ、昔はこの毛を集めて枕やクッションの中に詰めたという。

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まだ開かない新芽を茹でて皮をむき、その後何日もかけてあく抜きをする。そしてひと口サイズに薄く切った後、豚肉と共にしょうゆ、砂糖、酒で甘辛く煮る。カクマを料理するには、時間と手間が要るので、おそらく最近は料理する人が少なくなってきたに違いない。ハワイにいた当時私はカクマを食べるたびに、"日系人はこのお化けのような巨大なハプ・ウを見ては日本のワラビに想いを馳せ、昔ながらの味付けで料理して故郷を懐かしむのだろう"と感慨にふけったものだ。煮しめ、大根なます、巻き寿司も必ずテーブルに並ぶ料理だった。どの料理にも日本を偲ぶ想いが一味加わっていた違いない。
(手のサイズと比較すると、ハプウの大きさが分かると思う。) 

ハワイでも日本でも、新しい年が明けた。皆さんにとって、健康で楽しい1年になることを、心から願う。
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【written by 扇原篤子(おぎはら・あつこ)】1973年から夫の仕事の都合でハワイに転勤。現地で暮らすうちにある一家と家族のような付き合いが始まる。帰国後もその 一家との交流は続いており、ハワイの文化、歴史、言葉の美しさ、踊り、空気感に至るまで、ハワイに対する考察を日々深めている。
【最近のわたし】毎年お正月には、近所の井草八幡へお参りに行く。源頼朝公にゆかりのある古い八幡宮だ。来年の秋祭りには5年に1度の流鏑馬が出るので、興味のある方は是非おいで下さい。