第21回:「新米ママの"笑い、時々涙"」
2011年11月11日
【written by 扇原篤子(おぎはら・あつこ)】1973年から夫の仕事の都合でハワイに転勤。現地で暮らすうちにある一家と家族のような付き合いが始まる。帰国後もその 一家との交流は続いており、ハワイの文化、歴史、言葉の美しさ、踊り、空気感に至るまで、ハワイに対する考察を日々深めている。【最近の私】我が家の外装の塗装工事がようやく終わりに近づいてきた。この2週間は足場とネットに囲まれ、文字通り「かごの鳥」状態。秋の爽やかな空気を味わうどころか、塗装のにおいに浸っていた。
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当然のごとく、長男が生まれてから生活は一変した。朝から晩まで、時間に追われる日々が続く。まずオムツの洗濯がある。相変わらずランドリールームは1階だから、毎日1階から4階を何度も往復する。当時、紙オムツはまだ貴重な品。ロングドライブに出かける時に使うくらいで、普段は日本から持参した木綿のさらしのオムツを使っていた。トイレの中でサッとゆすぎ、それを脇に置いた漂白剤の入ったバケツの中に入れて殺菌する。いっぱいになったら洗面台でゆすぎビニールの袋に入れ、ランドリールームへ担いでいく(オムツの殺菌方法はクレさんから習ったやり方だった)。長男を寝かしつけた合間を見計らっての、まるでゲームをしているような感覚だった。
定期健診も大変だった。小児科の担当医はドクター・バンパッサンといって、オランダ系のアメリカ人。日常の英会話はさほど問題なかったが、初めての子育てに関する様々な不安を尋ねるには、やはり準備が必要だった。ノートを1冊作り、和英辞書を引きながら質問事項を英文に直す。まず予防接種の名前を英語で調べる。それに加え「湿疹」「微熱」「鼻水」「ぐずる」・・・等々、長男の微妙な変化を英語で説明しなくてはならない。診察室でノートに書いた英訳した文を読みながらドクターに質問するまではいいのだ。問題はドクターの返答だ。とにかく早口で、おまけに猛烈なオランダ訛り?だ。
「○×△□#*・・・ OK?!」
毎回、彼の言葉の中で理解できたのは、最後の決めの一言「OK?!」だけ。これではかえって不安が大きくなる。そこでいつも日本語が分かる日系の看護師の方にそばにいてもらい、診察が終わった後改めて彼女に説明をしてもらう、ということが続いた。
どういうわけか我が長男は、昼間はぐっすり眠るのだが、夜になるとぐずって泣き出す。新米ママは昼間は何かと忙しく動き回り、夜は疲れ果てて少しでも休みたいと思うのにそれをさせてくれない。アパートの隣近所に泣き声が聞こえると迷惑なので、抱いてあやしながらあの狭いアパートの部屋の中を、夜中グルグルと歩き回った。時には車に乗せて、ヒロの町をドライブすることもあった。眠ったかなと思いアパートの駐車場に戻って車を停めると、思い出したようにまた泣き出す。あまりに辛くてヨコヤマさんに相談したところ、「昼と夜を間違えているからだ。長男の名前を紙に書いて、それを逆さにしてキッチンに張りなさい」と言われた。効果があったかどうかは、記憶に定かでない。
こんな新米ママの、「笑い、時々涙あり」の生活は、多くの人々の助けを得ながら、徐々に何とか要領を得るようになっていく。
〔『新米ママの"笑い時々涙"』の
"笑い"の瞬間〕