やさしいHAWAI’ I

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第23回:「犬を連れた老女の正体は?」
2012年01月13日

【written by 扇原篤子(おぎはら・あつこ)】1973年から夫の仕事の都合でハワイに転勤。現地で暮らすうちにある一家と家族のような付き合いが始まる。帰国後もその 一家との交流は続いており、ハワイの文化、歴史、言葉の美しさ、踊り、空気感に至るまで、ハワイに対する考察を日々深めている。
【最近の私】昨年は日本がかつてない大きな問題を抱えた年だった。その1年を 表す文字として選ばれた『絆』。改めて人と人との繋がりを考えたい。
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ハワイ島にある活火山キラウエアには、火の女神ペレが住むという。ある時は白髪の老婆に、またある時は黒髪の魅惑的な美女に姿を変える。そんな女神ペレにまつわる話は数多くあり、本当に会ったと言う人も少なくない。実はヨコヤマさんの妹、シマダさんもその一人だった。ある時、シマダさんから当時の体験談を聞く機会があった。

『あれはもう随分昔のことだね。庭のマンゴがたくさん実ったので、カウマナドライブの上の方に住んでいるヨコヤマの兄さんの家に届けようと、夜8時ごろに車で出かけたんだ。

用事を済ませ、急いで帰ろうとカウマナドライブを下っていった。くねくねと曲がったあの通りには灯りが全くないから、車のライトを頼りに注意深く運転していたよ。そして、いくつ目かの大きなカーブを曲がったその瞬間、犬を連れた真っ白な長い髪をした老女の姿がライトの中に浮かび上がったんだ。それでビックリして急ブレーキをかけ、ハンドルを切ったよ。

あまりの出来事にしばらく呆然としていたけど、我に帰って振り返った時には老女の姿は消えていた。とにかく怖くて、その後どうやって自宅にたどり着いたか覚えていない。だけど白髪の老女を見た瞬間、私にはそれが誰だか分かったんだ。あれはペレ。火の女神ペレに違いない。あの辺りにはカウマナケイブという溶岩洞窟があり、その中にペレが住んでいて時々姿を現すとは聞いていた。でも、実際に見たのはあの時が初めて。以来、暗くなった後、あの辺は二度と通らないようにしている。またペレに出くわすかもしれないからね』。

昔からハワイではこう言われている。"もしどこかで犬を連れた白髪の老女に出会ったら、親切にしてあげなくてはいけない。お腹がすいていると言われたら、何か美味しいものをご馳走してあげなさい。寝る場所がないと言われたら、家に連れてきて休ませてあげなさい。その老女はペレかもしれないから。もし邪険に扱ったら、ペレは怒って必ず仕返しをする。火山を噴火させてその人の家に向かって溶岩を流すのだ"、と。シマダさんはこれまでに何度もそうしたことが起こっていると、こんなエピソードを話してくれた。

『ハワイ島東部、プナ地区の海に突き出した岬にクムカヒという灯台があってね、その昔、白髪の老女が一晩の宿を求めてやってきた。灯台守は親切に食事と暖かい寝床を用意したけど、別の住人は"薄汚い老女だ"と彼女を追い払った。それから間もなく、プナで噴火があり、老女を追い払った人の家は溶岩にのみ込まれ、瞬く間に炎の中に消えていった。でも、溶岩はクムカヒ灯台のすぐそばまでくると、まるでそれをよけるように海へ流れ、灯台は何の被害も受けず無事だったんだよ。今度、クムカヒ灯台へ行って、実際に溶岩を見てみるといい』。

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〔左が灯台の全景。右は灯台の周囲のフェンスをよけて流れた溶岩〕

上の2枚は、私がクムカヒ灯台へ行って撮った写真だ。あまりにも見事に灯台をよけた溶岩を目の前にすると、ペレの話をただの迷信とは片付けられないと認めざるをえなかった。

キラウエア火口にあるジャガーミュージアムには、ペレの涙と髪の毛が展示されている。これらは火山活動によって出現した物にすぎない。しかし、じっと見ていると、今でもペレはハワイの人々の心の中にリアリティを持って力強く生き続けている、と実感させられるのだ。

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〔ペレの涙と髪の毛とされる、火山からの噴出物〕