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第30回:ワンダバ
2012年06月28日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】御殿場から河口湖まで80km、制限時間26時間のSTYというトレラン大会に参加。これでもハーフの部で、フルは河口湖→河口湖の160km。結果は本栖湖でリタイア。朝5時のことでした。
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漫画の『Dr.スランプ』に、ウルトラシリーズのBGMが登場したことがある。もちろん漫画なので音楽は聞こえない。背景に丸っこい文字で、"わんだばだ わんだばだ"と書かれていただけだ。あられちゃんに引かれたリヤカーで、スッパマンがDr.マシリトとの対決に向かう出動シーンだった。

その原曲が『帰って来たウルトラマン』のMAT(地球を守る特殊部隊)のテーマ曲で、通称『ワンダバ』と呼ばれている。 "ワンダバダ、ワンダバダ、ワンダバダ"と男性コーラスが入る、何年か前に缶コーヒーのテレビCMにも使われていた曲なののだが、皆さんは覚えているだろうか。『ワンダバ』と音がとてもよく似ている名前の商品で、(僕の記憶が正しければ)俳優の反町隆史が出演していた。

実はこれを作曲したのも、前回紹介した冬木透氏だ。『ワンダバ』は、番組制作側にも評判が良かったのだろう。『帰って来たウルトラマン』以降も、平和を守る特殊部隊のテーマ曲として、それぞれ別バージョンのワンダバ入りBGMが使用されてきた。

ワンダバシリーズの中でも、第1弾である『帰って来たウルトラマン』のものは秀逸だった。華やかな進軍マーチとは正反対の、重厚で落ち着いた曲調の中に、戦いに向かう隊員たちの強い意志や緊張感といったものが見事に表現されている。曲の後半に鉄琴の高い音色が加わってリズムを刻み、張り詰めた緊迫感が一気に高まる。さらに、全体を通して流れる悲壮感。ここで怪獣を止めらなければ終わりだ。そんな状況の戦いに向かう場面には、これ以上ないほどピッタリ来る曲だった。

それが『ウルトラマンタロウ』になると、番組自体の方向性を反映したためか、ずいぶんと力の抜けた曲になってしまう。餅をつく臼の形をした怪獣モチロンが登場したことについては、このブログでも紹介したことがある。怪獣が最後にただの巨大な臼となり、タロウがそれで餅をつく。このシーンを見てテレビの前で引っくり返った子供は、おそらく僕だけではないはずだ。

まあ、それはともかくとして、『ウルトラマンタロウ』版の『ワンダバ』はノンビリしすぎて、戦場に向かう場面には合いそうもない。むしろ、基地内でコーヒーを飲んでくつろいでいる場面が似合うだろう。コーラスは男性ではなく女性によるものに変わり、歌詞も「ワンダバ」ではなく"ダーダバダ"となった・・・って、ちょっと待てよ。僕はここで気がついた。"違いがわかる男"遠藤周作が出ていたインスタントコーヒーの宣伝。あのBGMには"ダバダー、ダー、ダバダー、ダバダ"と女性コーラスが入っていたではないか!これは果たして偶然だろうか?

一時中断したウルトラシリーズも、1980年代に入って『ウルトラマン80』でお茶の間に帰ってくる。そして『ワンダバ』も復活。この『ウルトラマン80』版は、空を飛翔するイメージを喚起させる、ひたすら爽やかな楽曲だ。映画『ネバーエンディング・ストーリー』で、主人公がドラゴンに乗って空を飛ぶシーンで使われた曲、『Bastian's Happy Flight』にも匹敵する爽快感があるんじゃないだろうか。トランペットの響きが空の広がりを感じさせ、バイオリンの音色は流れる風を思い起こさせる。聞いているだけで空を飛ぶ気分になれる、そんな曲だ。