第31回:色つきの女と怪獣で
2012年07月26日
【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。【最近の私】イチローが電撃移籍!当日はたまたまMLB情報番組の仕事でNHKに入る日。僕が担当する「他試合の結果」コーナーなど飛んでしまうかと思ったけれど、意外といつもの番組構成でした。
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「女の子と怪獣はやっぱり色つきよね!」
これは『ウルトラマン』で科学特捜隊・フジアキコ隊員、そして『ウルトラQ』では毎日新報のカメラマン・江戸川由利子を演じた女優、桜井浩子さんが『総天然色ウルトラQ』を見た感想だ。『総天然色ウルトラQ』とは、モノクロだった『ウルトラQ』が最先端のデジタル技術で着色され、DVDとブルーレイで商品化されたものだ。
『ウルトラQ』の江戸川由利子は、いつも制服姿のフジ隊員と違って、さまざまなファッションで登場する。自前の服で出演したことも多かったそうで、きっとあれこれ考えながら衣装を選んだことだろう。でも残念なことにモノクロ映像では、彼女のおしゃれもよく伝わらない。カラー化された映像を見た桜井さんが、「やっぱり色つきよね」と思ったのは当然のことだろう。
怪獣の「色つき」に関してはどうだろうか。もともとカラー作品の『ウルトラマン』の場合は、全身が金色の怪獣や、頭に真紅の羽飾りがある怪獣などが登場。青い怪獣と赤い怪獣が激突する場面では、色のコントラストの面白さが味わえた。その数年後の『ウルトラマンA』になると、怪獣たちはまるでオモチャのようにカラフルになっていく。だけど、モノクロの『ウルトラQ』の怪獣たちには、当然ながら鮮やかな色彩の設定など必要ない。カラー化したとしても、『ウルトラマンA』と比べたら相当地味な仕上がりになっている可能性もある。しかし、たとえそうだとしても、画面でどんな色の怪獣が戦っているのか知りたくなるのがファンの性というものだ。
というわけで、先日、『ウルトラQ』カラー化を記念して開かれた『総天然色ウルトラQ』オールナイト上映会"たいせつなことはすべて怪獣がおしえてくれた"に足を運んだ。上映前のステージには、漫画家のみうらじゅん氏と映画評論家の町山智浩氏が登場。カラー化反対派の友人、泉麻人氏と飲み屋で激論を交わし、殴り合い寸前になったというみうら氏。確かに、カラー化には反対という人の声も根強い。「オリジナルに手を加えるとはけしからん」、「モノクロであるからこその良さがわかっていない」というのがその理由だ。ほかにもこのイベントでは、『ウルトラマン』のバルタン星人に流用されたケムール人の声は、もともと映画『マタンゴ』に登場する"キノコ人間"のものだったとか、画面に同時に登場する2体の怪獣(カネゴンやガラモン)着ぐるみは、実は1体しかなく映像が合成されているとか『ウルトラQ』にまつわるマニアックな話もたくさん聞くことができた。
今回上映されたのは、みうら氏と町山氏が選んだ10本。第1話『ゴメスを倒せ』や第13話『ガラダマ』など、どれも「『ウルトラQ』の代表作」と言ってもいいようなものばかりだ。内容はともかく、着色された映像がどうだったかというと、劇場のスクリーンで見る限り不自然さなど全く感じなかった。その出来栄えは、最初からカラー作品だったかのように思えてしまうほど。人の肌の色は多少黄色っぽいかなと思える場面もあるが、風船や車両など無機質なものの色付け具合は見事だった。全体的に色あせたような色調になっているのは、古い作品の雰囲気を出そうとしたためだろうか。それが結果として、不自然さを感じさせないことにつながったのかもしれない。
『ウルトラQ』カラー化のメリットとしては、映像のディテールがわかりやすくなったという意見がある。今回上映作品に選ばれた第15話『カネゴンの繭』には、朝起きたら怪獣になっていた少年が、小高い丘の上で途方に暮れるシーンがある。その時のバックは夕焼け空。哀愁を漂わせる場面の背景としては、定番中の定番だ。ところがモノクロ版『ウルトラQ』では、その演出効果は期待できない。当時の製作現場では、もしカラー映像であればと、歯がゆい思いがあったに違いない。カラー化は、その悔しさを晴らした形になっただろう。
当時の演出意図を読み違いさえしなければ、『総天然色ウルトラQ』は当時の製作スタッフへの敬意の表れと言っていいのかもしれない。そのような視点に立って見てみればいろいろ新しい発見ができそうで、モノクロ版と見比べてみるのも面白いだろう。