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第49回:ヒーローと色:その3
2014年02月07日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】今回のテーマはオレンジ色。NFLのブロンコスにとっては、不吉な色のようだ。週末のスーパーボウル、オレンジ色のユニホームで戦いに臨んで大敗。青や白のユニホームでならスーパーボウルを制したことがあるのに、なぜかオレンジ色だと4戦全敗だそうだ。
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オレンジ色の特撮ヒーローは、なぜいないのだろうか。ヒーローたちにとって縁起の悪い色なのか、単に彼らの好みに合わないのか。そんなことを疑いたくなるくらい、僕はオレンジ色のヒーローを見た記憶がない。たとえばスーパー戦隊シリーズ。赤、青、黄色、緑、ピンクなど、色の違う5人のヒーローが、数十年に渡って活躍してきたけれども、オレンジ色の戦士は一度も登場したことがない。レインボーマンは7つの姿を持ち、それぞれ色が違っていたけれど、やっぱりオレンジ色は使われていなかった。

白黒テレビの時代、国民的ヒーローとなった月光仮面は、全身白いコスチュームに身を包んでいた。白を着れば、黒スーツの悪人と区別をつけやすい。それに加えて、"モノクロ映像の中で一番目立つ色だから"という判断もあったかもしれない。

カラーテレビ時代に入ると、全身金色のマグマ大使が登場した。なぜ金色に設定されたのか、その理由は正直わからない。ただ、金色はどんな色の中でも映える色だ。企画会議で"特撮カラー作品第1号(注釈)なんだから、インパクトの強い色にしようよ"という意見が出たとしても、不思議ではない。

『マグマ大使』の13日後に始まった『ウルトラマン』は、いうまでもなく銀に赤いライン。赤という色も金色と同じく、どんな風景の中でも映える色だ。特撮ヒーローの色として、定番中の定番と言っていい。一方の銀色も、ウルトラマン以降、ミラーマンやシルバー仮面、宇宙刑事ギャバンなどに使われた。ちなみに、銀色に比べ、金色のヒーローは少ない。僕が思い出せるのは、スペクトルマンぐらいだ。ただ数年前、深夜帯に放送された『牙狼〈GARO〉』に、全身金色のヒーロー、牙狼が登場。ダークな作風と映像の中にあって、金色の輝きが印象的だった。

閑話休題。特撮ヒーローはどんどんカラフルになっていき、ゴレンジャーやレインボーマンでは、同一作品内で何色ものヒーローが登場した。ここ数年の仮面ライダーシリーズも、同じような状況だ。複数のライバルライダーの存在や、主役ライダーのモードチェンジが、何色ものライダーの登場を可能にしている。しかし、これだけカラフルになった中でも、ヒーローたちがオレンジ色に目を向けることはなかったのだ。

ところが、昨年放送された『仮面ライダーフォーゼ』が、ついにその壁を崩した。フォーゼは、ロケットと宇宙服がモチーフ。だから基本形態は白だけれど、モードチェンジによって、全身オレンジ色に変わるのだ。また、現在放送されている『仮面ライダー鎧武』の鎧武は、甲冑と果物のオレンジがモチーフで(注釈3)、目や胸、肩口に鮮やかなオレンジ色があしらわれている。

色彩心理学によれば、オレンジ色は「明るさ」や「陽気さ」といったイメージと結びつくそうだ。それを意識したのかどうかわからないけれど、番組スタッフは作風に合う色として、オレンジを選んだのかもしれない。フォーゼも鎧武も、ライダーシリーズの中では珍しくコミカルな作風だからだ。それにしても、ついに果物までヒーローのモチーフになるとは!ライダーシリーズの発想の自由さが、改めてよく分かるキャラクターだ。

モードチェンジやライバルライダーの登場で、カラーバリエーションが豊富になった最近のライダーシリーズ。どんなデザイン、カラーリングがファンに受けるかチェックするという、実験的な意図もあるのだろうか。もしかしたらフォーゼをきっかけとして、オレンジ色のヒーローが数多く登場するようになるかもしれない。

追記
ここまで3回にわたり、特撮ヒーローと色について書いてきた。特にライダーシリーズに関しては、まだまだ奥が深そうだ。たとえば、最近になって白いライダーが登場してきていることや、ほとんどのライダーにシルバーがあしらわれていること、目の色は赤のほかに緑もよく使われていることなど。何か面白い発見があれば、記事にしたいと考えている。

注釈
 『マグマ大使』放送開始は1966年。全身金色のキングギドラが登場した怪獣映画、『三大怪獣 地球最大の決戦』の公開は1964年。マグマ大使の色設定が、キングギドラに影響を受けた可能性も考えられる。