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第42回:ヒーローとビジネス
2013年07月05日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】スポーツ中継で「~てきた」という表現が氾濫している。たとえば「シュートを決めてきた」は、「シュートを決めた」の方が適切な場合も多い。翻訳者がそれを、"スポーツの実況らしい言い回し"だと勘違いしたりする。困ったことだ。
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円谷プロダクション創立50周年を記念して、ウルトラマンシリーズの新作が7月10日に始まる。タイトルは『ウルトラマンギンガ』(以下『ギンガ』)。深夜に放送された『ULTRASEVEN X』以来、6年ぶりの新作ウルトラマンだ。

しかし『ギンガ』は独立した番組ではなく、『新ウルトラマン列伝』という30分番組の中に、枠をもらって放送されるに過ぎない。しかも、劇場版へのステップという位置づけではあるらしいが、わずか11話で終了してしまう。創立50周年記念にしては、なんとも寂しいではないか。仮面ライダーと比べたとき、その思いはより強くなる。

平成12年に復活した東映のライダーシリーズは、独立した番組として放送が続き、現在の『仮面ライダーウィザード』で14タイトル目だ。一方、平成8年に復活したウルトラマンシリーズは、数回の中断を挟みながら平成19年に終了。12年間で8タイトルの放映にとどまった。ここ数年、劇場版でいくつかの新作が発表されている同シリーズではあるが、テレビではもはやライダーの敵ではないのだろうか。

ライダーシリーズが人気を維持している理由は、いろいろあるだろう。ひとつ考えられるのが、多角的なビジネス戦略だ。その代表的なものがキャラクター商品だろう。特撮番組に関連したオモチャに限ったことではないが、キャラクター商品は映像作品の人気を高める効果がある。たとえば、自分の好きなヒーローの人形で毎日遊んでいれば、ますます好きだという気持ちが盛り上がり、番組を欠かさず見るようになる、という具合に。

キャラクター商品の売り上げが多ければ、ロイヤリティとして入る金額も大きくなる。それが番組制作費に反映されれば、映像作品の質の維持・向上、ひいては視聴者獲得につながるだろう。その意味で、最近のライダーがモードチェンジでいろいろ姿を変えたり、毎回のように複数のライダーが登場したりすることは無視できない。それだけ人形の種類も増え、子どもたちは1つ買ってもらっただけでは満足できず、「あれも買って」と親にせがむことになるからだ。

ウルトラマンの中にも、姿を変えるものはいた。だけど大胆に外観が変わるライダーたちに比べれば、その変化は小さく地味だ。子どもへのアピール度は弱い。また複数のウルトラマンが登場する作品もあることはある。でもその数は、せいぜい2人。主役の他に3~4人、ときには12人もの仲間やライバルが登場したライダーとの差は歴然だ。

平成ライダーは、人形以外の商品も豊富にある。たとえば変身ベルト。劇中ではただ巻いているだけでなく、カードやメモリなどの装着によってライダーのモードチェンジを可能にする。当然ストーリー上の重要性も高まり、子どもたちの興味を引きやすい。またライダーは武器を持って戦うことが普通になったが、子どもはなぜか武器というアイテムに弱い。誰でも武器さえ持てば、強くなれるからだろうか。それはともかくとして、ヒーローが使う武器を子どもが欲しがるのは当然だ。そうして買ってもらった変身ベルトを腰に巻き、武器を構えれば、"なりきり感"がぐっとアップ。そのまま番組を見れば、彼らのテンションは最高潮に達する。

こういったビジネス面において、『ギンガ』はライダーにどう対抗するのだろうか。『ギンガ』の設定で分かっているのは、ウルトラ戦士や怪獣が、闇の力によって人形に変えられているということだ。これは明らかに、キャラクター商品の売り上げを考えてのことだろう。子どもたちからすれば、劇中に登場するのと"同じもの"を手にすることができる。これは画期的なことだ。これまでは、ウルトラマンにしろライダーにしろ、人形はただヒーローたちを"模したもの"に過ぎなかったのだから。果たして他にも策はあるのか。『ギンガ』の第1話に注目しよう。