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第37回:大人向けの『仮面ライダー』は可能か
2013年02月01日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】再びエヴァンゲリオンの謎解きにはまっている。解釈本を読んだりしていると、脳細胞が喜んでいる気がした。人は頭をひねると、快楽物質が分泌されるのかもしれない。
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年が明け、辰年から巳年になった。ヘビと特撮といえばやはり、ホラー色が強い初期の『仮面ライダー』を代表する怪人・コブラ男だろう。怪奇な雰囲気をたっぷりと漂わせる一方、犬に吠えられて逃げ去るという情けない一面も持っている。そんなコブラ男であるが、2005年の劇場映画『仮面ライダー The First』(以下『The First』)では、ライダーを圧倒するような強さを持って登場。デザインも一新され、かなりスタイリッシュになった。

『The First』は物語としての原点に立ち帰り、大人の観客をターゲットに作られた、『仮面ライダー』のリメイク版だ。コブラ男だけでなく、ライダーや他の改造人間のデザイン・設定にも、大人向けであることが見て取れる。彼らは改造人間だが、外見は普通の人間のまま。任務遂行の際に特殊なマスクをかぶることになっている。そのマスクはロボット的なデザインで、全身を包むレザーのコンバットスーツ同様、黒を基調とした色でまとめあげられ、実にシャープな印象だ。

ライダーが「マスクをかぶる」。これは、テレビシリーズの原作者、石ノ森章太郎氏による漫画『仮面ライダー』(テレビシリーズと同時期に執筆が進められたもので、いわゆる"原作"ではない)でも同じ設定だった。テレビ版のように、ジャンプして瞬時に姿を変える「変身」とは違う。何歳ぐらいのときだったか忘れたが、僕は漫画版の方がより"リアル"だと感じたことを覚えている。子どもだった僕もいつからか、特撮ヒーローの変身にはどこか無理があると感じていたからだろう。

リアルだと感じられること。これは、フィクションが大人に受け入れられてもらえるかどうか考える上で、重要なことだと思う。特撮ヒーローの変身について、番組内で科学的根拠が示されることはまずない。しかしそれでは、大人の観客や視聴者を納得させることは難しい。マスクをかぶるという無理のない設定にした点において、『The First』は確かに、大人向けの作品を目指したと言っていいだろう。

だが残念なのは、首から上に限れば、でしかなかった点だ。主人公の本郷猛が、仮面ライダーに姿を変えるシーンを再現してみよう。敵を前にした本郷猛が、腰のあたりに手をやる。そこをカメラがアップで抜くと、いつの間にか腰にはライダーベルト。その真ん中に仕込まれた風車が、高速で回転を始める。続くカットで、すでにライダースーツ姿になっている本郷猛が、マスクを装着する。

最後のカットは、肩の下あたりまでしか見せていない。それに加え、マスクをかぶるという動作に注意が向くので、ライダースーツに変わったことはあまり気づかれないような演出になっている。ただし、その効果は一時的でしかないだろう。誰しも見ているうちに、「そういえば、ライダースーツはいつ着たんだ?」という疑問が湧いてくるだろう。どう考えても着替える暇などない。本郷猛の首から下には、一瞬で説明のつかない変化が起こった。つまり、変身したのだ。これでは、マスクをかぶるという設定にした意味が、なくなってしまうではないか。

ただ変身というものは、良くも悪くも日本型特撮ヒーローの基本だ。それを捨てることは、特撮番組を否定することになるかもしれない。仮面ライダーから変身を奪ったら、それはもう仮面ライダーではない。そんな考えが、『The First』の作り手にあったのだろうか。あるいは、昔からのファンによる批判が予想され、それを避けようとしたためだろうか。どちらにせよ、『The First』は変身を捨て切ることができなかった。

では変身を残したまま、大人向けの仮面ライダーを作ることは、果たして可能だろうか。僕には、ファンタジーにしてしまうことぐらいしかアイデアが出てこない。ファンタジー映画なら、ドラゴンが火を吹いたり魔法の呪文で蛇を出したり、何でもありだ。誰もそこに、科学的根拠などは求めない。それなら、「変身」という掛け声とともにジャンプしている間に、人間が仮面ライダーに姿を変えたっていいはずだ。ただし、いくらファンタジーとは言っても、愛車のオートバイの代わりに空飛ぶほうきに乗って登場することだけはやめてもらいたいが・・・。