第47回:ヒーローと色:その1
2013年12月06日
【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。【最近の私】『進撃の巨人』の実写版制作が動き出すようだ。主演女優の候補には、剛力彩芽とか橋本愛の名前。そのあたりも、(そのあたりが?)非常に楽しみなんである。
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仕事でメジャーリーグの映像を見ていると、赤いユニフォームが多いなあと感じる。松井秀喜が所属したエンジェルスを始め、田口壮のカーディナルス、さらにレッズやフィリーズ。どれも白地に赤い帽子とアンダーシャツで、広島東洋カープそっくり。知らない人が見れば、その4チームはまず区別できないだろう。しかも最近では、ダルビッシュのいるレンジャーズのように、普段は青いユニフォームが、ときどき赤に変わるチームまである。
一説によれば、赤という色は強く見える上に、闘志を高める効果もあるので、西洋では"戦いの色"として使われてきた歴史があるらしい。さらには、赤いウェアを着ると運動パフォーマンスがアップする、なんていう話も聞く。
それが全て本当なら、特撮ヒーローたちにとって、赤ほどふさわしい色はないだろう。弱そうに見えたら敵になめられるし、どんな強敵が相手でも気持ちで負けるわけにはいかない。そして、たとえ数%でも自分の戦闘力が向上するのであれば、彼らはどんなことでも取り入れるべきだ。
もちろん番組制作者だって、赤という色の利用価値は無視できない。ヒーローは強く見える必要があるのはもちろん、画面の中で目立たなければいけない。赤は人の目を引く力があるから、すぐ目に入ってくるし、どんな背景であっても姿が浮き出る。それに、赤は"情熱"といったイメージも喚起するので、ヒーローの"熱さ"を表現するのにはピッタリだ。
赤いカラーリングが施されたヒーローたちを振り返ってみると、まず初代ウルトラマンは銀のボディに赤いラインが特徴的だった。以降、赤はウルトラ戦士の基本色となる。初代仮面ライダーは、目とマフラーが赤。それに続く歴代ライダーたちも、大抵どこかに赤が使われている。5色の戦士が登場するスーパー戦隊シリーズでは、必ずと言っていいほど、レッドがリーダーとして設定されている。
色彩心理学なるものによれば、赤には購買意欲をかきたてる効果もあるらしい。子供たちがおもちゃ売り場で「買ってくれ」とせがむヒーローの人形を見て、親の財布の紐も緩みがちに。こうして、キャラクターグッズの売り上げが伸び、上に挙げた3大特撮シリーズが長寿番組となる後押しをしたのであれば、話としては面白い。さらに一歩、いや十歩ぐらい踏み込めば、「全身金色のマグマ大使や銀と緑のミラーマンが主役の特撮番組がシリーズ化されなかった理由は、そのカラーリングにあり」という、かなり大胆な仮説も立てられそうだ。
ただ不思議なことに、歴代のウルトラ戦士やライダーたちを思い出しても、僕の中で赤が印象に残るヒーローがいない。その理由の一つは、全身が赤いヒーローが少ないということは言えると思う。ウルトラセブンは体のほとんどが赤だけれど、頭部は銀色だった。特別な理由がなければ、誰でもヒーローの姿を見るとき、視線は顔にいくだろう。セブン=赤という印象にはならなかったのは、銀色の頭部を中心に見ていたからだと思う。
それじゃあ、レッドバロンはどうか?レッドバロンは、1970年代に放送された『スーパーロボット レッドバロン』に登場する、頭から足先まで赤一色のロボットだ。けれど、これも赤のイメージがあまり湧いてこない。理由をあれこれ考えていた僕は、ふと気が付いた。赤いヒーローを考える上で、僕は無意識に"赤い彗星"と比較していたのだ。"赤い彗星"とはもちろん、アニメ『機動戦士ガンダム』に登場するシャア少佐のことで、厳密に言えば敵役でヒーローではない。ただ、彼が操縦する全身赤のモビルスーツ(注釈)は、抜群の戦闘力で向かうところ敵なし。主人公の属する連邦軍には、鬼神のように怖れられる存在だった。
赤は強さを表現する。強さは戦ってこそよくわかる。だからこそ、シャアのような敵役が赤を使ったほうが、より鮮烈なイメージとなるのだろう。ここで今回の結論。ヒーローは赤が一番似合うが、赤が一番似合うのは敵役だ。皆さんは、どう考えるだろうか。
注釈
彼専用の機種はファンの間で人気だが、この秋、トヨタ自動車は『起動戦士ガンダム』とコラボレーションし、真っ赤な「シャア専用オーリス」の販売を開始。この商品化には、ファンの後押しもあったようだ。