やさしいHAWAI’ I

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第35回:命の再生
2013年02月13日

【written by 扇原篤子(おぎはら・あつこ)】1973年から夫の仕事の都合でハワイに転勤。現地で暮らすうちにある一家と家族のような付き合いが始まる。帰国後もその 一家との交流は続いており、ハワイの文化、歴史、言葉の美しさ、踊り、空気感に至るまで、ハワイに対する考察を日々深めている。
【最近の私】日本女子アイスホッケーが、オリンピック出場を決めた。アイスホッケーと言えば「ラブストーリー」を思い出す。スティックでたたき合い殴り合う、荒っぽい大男のイメージが強いスポーツに、ついに女子が参戦。でもヘルメットを脱げば、笑顔のかわいい女の子だ。オリンピックでは、メダルを目指して頑張って!!
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現在のキラウエア火山の活動は25年以上も前に始まり、今もなお続いている。私が2カ月間ハワイに滞在していた2002年も、活発な噴火活動があった。当時、溶岩流を間近で見られるというニュースを聞いた私は、数人の仲間と一緒に様子を見に行くことにした。

ヒロの町から、走り慣れた国道11号線を車でおよそ40分南へ行くと、ボルケーノ・ナショナル・パークに着く。キラウエア火山は、世界の活火山の中でもその活動を目の当たりにできる数少ない火山の1つだ。パークでは、まずビジターセンターへ行き、現在の溶岩の流れの状況を尋ねた。時によって溶岩から発生する有毒ガスが周辺に蔓延し、立ち入り禁止地域が発表されることがあるので、必ず現況を知っておかなければならないのだ。

35-image001.jpg徐々に陽が落ちていくなか、溶岩流のある地域へと車で入っていく。すると、左右にはまるで、「太古の様相」とも言える風景が広がっていた。古い溶岩流はあちらこちらですでに崩壊を始め、新しい物は銀色にギラギラと光り、流れの形をそのまま留めている。まさにこの地球が誕生した時はこうだったのでは、と思わせる景色だった。
日もとっぷりと暮れた頃、多くの車が駐車している道路わきに私たちも車をとめて歩き始める。火山の噴火が始まるとハワイ島のみならず、他の島から、そしてアメリカ本土からも、大勢の人が島の誕生の現場を目撃しようとやって来る。周囲は何も見えない真っ暗闇。空を見上げると地平線から地平線まで、文字通り満点の星だ。

35-image003.jpgその中をキラウエアに住む火の女神・ペレの「心臓の鼓動」とも言うべき溶岩流を求め、懐中電灯の明かりだけを頼りに、ゴツゴツとした溶岩の上を歩いていく。すると、小さな「バチバチ...」という、何かが燃えてはじけるような音が聞こえ、圧倒的な熱を感じた。さらに近づいてみると、そこに現れたのは黒い表面を割って流れる出す真っ赤な溶岩だった。猛烈な熱を発しながら、私の足元の2~3メートル先をゆっくりと流れている。もしこの中に飛び込んだら、私の身体は一瞬のうちに煙となってしまうのだろう。しっかりと足を踏ん張っていないと、何だかペレの力によって引き込まれてしまいそうな気がする。

そんな時だった。目の前の溶岩に興奮したのか、すぐわきにいた観光客の若い男性2人が、大声でふざけながら溶岩の上に足を乗せようと近づいたのだ。表面が黒くなっている部分は触れても大丈夫とでも思ったのだろうか。それを見ていたローカルの女性が大きな毅然とした声で、「やめなさい!死ぬつもりなの。ペレの怒りに触れるわよ!!」と叫んだ。その声に一瞬ひるんだ2人は、我に返って溶岩から離れた。本当に危機一髪だった。無知とはいえ、あまりに危険な行動だった。たとえ表面が空気に触れて少し温度が低くなっているとはいえ、溶岩の温度はおよそ1000度。そうした危険をはらんでいるだけでなく、何よりハワイの人々にとってペレは神聖な存在である。それを冒涜するような行動は、誰であろうと決して許されないのだ。

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〔古い溶岩の割れ目から芽吹くオヒヤ〕    〔ペレの髪の毛のような溶岩流〕

  溶岩は、流れの先にあるすべての生命を焼き尽くす。後に残るのは、ギラギラと黒光りして波打つペレの黒髪。その後長い時を経て砕け始めた溶岩の割れ目からは、シダやオヒヤが芽を出す。ペレの怒りと共に噴出した溶岩は大地を覆い、すべてが死滅したかに見えるが、こうして確実に「命の再生」は繰り返されるのだ。