第18回:ポジティブな未来の予感
2012年07月05日
【written by メイソン千恵(めいそん・ちえ)】オーストラリア人の夫と共にブリスベンに在住。現在はオーストラリアの先住民、アボリジニを支援する団体「ノワカ」で活動中。驚きや感動を抱きながら、独特の文化と生活に触れている。【最近の私】ここ数日、ブリスベンでは雨が降り続いています。おかげで庭はジャングルのように...。ああ、クイーンズランドのまぶしい太陽が恋しい...。
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5月26日、「国家謝罪の日(National Sorry Day )」を記念した式典が、ブリスベン北部にあるカリンガ・パーク(Kalinga park)という公園で行われました。「国家謝罪の日」は、1997年の5月26日に"盗まれた世代(Stolen Generation)"(アボリジニの子供達を親から強制的に引き離し、施設に隔離する政策)ついて書かれたレポートが初めて公開されたことにより、定められました。そして2008年、この"盗まれた世代"の人々に対して、政府が初めて公式に謝罪。(第6回:忘れざる過去への謝罪 参照)その謝罪の記念碑がカリンガ・パークには設置されており、この日のセレモニーは、その記念碑を囲んで行われました。
当日は、小雨が降っていたにもかかわらず、大勢の人々が集まっていました。まず、オープニングでは、地元のエルダー(アボリジニの人々は敬意を込めて、年配者をエルダー(Elder)と呼びます)が、クラップ・スティック(Clap sticks)という拍子木を打ちながら歌を歌い、それに合わせてアボリジニの学生たちがウエルカムダンスを踊りました。そのあと、"盗まれた世代"であった人や、その世代を親や兄弟に持つ人、アボリジニの高校生などによりスピーチが行われました。また、"盗まれた世代"の政策のことを大人になるまで知らなかった学校の先生のスピーチなどもあり、どれも興味深い内容のものばかりでした。スピーチの合間には、ボディペインティングを全身に施した子供たちがダンスを披露。最初は恥ずかしそうにしていた子供たちも、皆の声援を受けながら3曲ほど踊りきり、得意げな様子でした。その姿がとても可愛らしく、会場もおだやかなムードに。観客の中にはその子供たちと同じ学校に通うアボリジニでない生徒もたくさんおり、普段見慣れない友人の姿を見て驚きつつも、彼らのパフォーマンスに感心しているようでした。
このように、アボリジニの子供たちがメインになってパフォーマンスをし、その姿を見た他の子供たちが、彼らと彼らの文化を誇りに思えるようなイベントを行うことはとても大切なことだと感じました。今回このイベントに参加して印象に残ったのは、アボリジニ以外の人々、特に学生が多かったこと。今までに参加したアボリジニイベントには、アボリジニの人がほとんどということが多かったのですが、この日はそれがとても印象的でした。アボリジニの歴史や過去の事実を何も教えないという学校も多かった数年前までに比べ、だんだんと学校教育も変わってきているのかもしれません。私の夫はメルボルンで育った白人のオージーですが、アボリジニの文化や歴史など、学校では何ひとつ教わらなかったのだとか。教わったのは「キャプテンクックが来て、オーストラリアを作りました」ということだけだったと言います。でも最近では、小学校で、オーストラリアの旗に加え、アボリジニやトレス海峡諸島民の旗などを掲げていたり、アボリジニの文化を勉強するために授業でブーメランを作ったりする学校もあるようです。
ネガティブな過去をなかったことにするのではなく、このような歴史的なイベントにも皆で参加し、生徒1人1人がその意味や歴史的背景を理解した上で、お互いを尊重し合うことができれば、こんなに素晴らしいことはありません。今後もこのように、学校でアボリジニの文化や歴史に関した教育をすることが定着すれば、アボリジニ以外の人々のアボリジニに対する見方や考え方が変わっていくのではないかと思います。この式典は、そんな未来への希望を感じさせるイベントでした。 左から、トレス海峡諸島民の旗、
オーストラリアの旗、アボリジニの旗