明けの明星が輝く空に

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第4回:人類の正体
2010年06月03日

【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】 子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】 「6月6日、Mt.富士ヒルクライムに出場します。雨が降ってもいい。寒くてもいい。どちらかひとつだけなら」
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前回、"怪獣の正体が実は人間だった"という『ウルトラマン』のエピソードを紹介した。それは怪獣退治をする側の正義に疑問を投げかけるものだったが、『ウルトラセブン』にはもっと根本的なところで人類の正義を問う1話がある。『ノンマルトの使者』というエピソードがそれで、なんと"人類こそ地球にやって来た侵略者だ"という糾弾がなされるのだ。

物語の冒頭、休暇で海に来ていた主人公(モロボシ・ダン)らの前に、1人の少年が現れ海底開発をやめるよう忠告※1。海底にはノンマルトと呼ばれる地球先住民がおり、彼らはあとから来た人類の祖先によって住む場所を奪われたというのだ。

やがてノンマルトが怪獣ガイロスを送り込み、"地球を守る"ウルトラ警備隊が出動。ダンもウルトラセブンに変身する。結果、ガイロスもノンマルトも"退治"され、人類の平和は守られた※2。この時、強烈な印象を残すのが、人類の勝利を宣言したウルトラ警備隊の隊長の表情だ。フリーライターの内池久貴氏は「狂気を感じさせる」と指摘しているが、その興奮した様子は尋常ではない。まるで、罪の意識をごまかそうとでもするかのように。

一方、セブンとガイロスの戦闘シーンも、いつもとは雰囲気が違っていた。ガイロスは必殺技一発で倒されるのではなく、刃物で少しずつ切り刻まれるのだ。何本も伸びた蛸のような触手が一本切り落とされるたびに、バスッという鈍い効果音が響く。さすがに血が噴き出るような演出はないが、妙に生々しさを感じさせるシーンだった。

ただしセブンは、ノンマルトとは直接交戦していない。主人公が地球先住民かもしれないノンマルトを殲滅したら、番組として成り立たなくなっただろう。人類はともかく、ヒーローの正義に関しては、微塵も疑問を感じさせてはならないからだ。

ところで、なぜノンマルトの存在を告げるのが人間の少年で、ノンマルト自身ではなかったのだろうか。ノンマルトは劇中、一言もしゃべっていない。これは、他の"人類の敵"とは違うことを明確にする演出ではないかと考えられる。いわゆる悪の宇宙人は、侵略意図を自分から語るのがお決まりだ。だが、侵略者ではないノンマルトに、そのパターンを踏襲させるわけにはいかないのだろう。

最後に、この作品で効果的に使われていたのが、少年が登場する時に流れるBGM。オカリナの奏でる物悲しい音色に、ノンマルトの悲哀が表れていた。

※1.この少年は、海難事故で何年も前に亡くなっていたことが、最後の場面で明らかになる。

※2.人類は侵略者だったのか、ということには何の結論も用意されなかった。また登場人物達がそれについてどう考え、どう自分の中で折り合いをつけたかという事も描かれてはいない。唯一、ウルトラ警備隊の隊長が攻撃前に一瞬躊躇し、自分を無理やり納得させる場面があるだけだ。