第4回:刑務所での悲しい出来事
2010年06月10日
【written by メイソン千恵(めいそん・ちえ)】オーストラリア人の夫と共にブリスベンに在住。現在はオーストラリアの先住民、アボリジニを支援する団体「ノワカ」で活動中。驚きや感動を抱きながら、独特の文化と生活に触れている。【最近の私】先週末、お気に入りのトルコ料理屋に行ってきました。とくにケバブは、安くて絶品。そこら辺のケバブ屋さんとは比べものになりません!
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先日、いつものようにノワカに行くと、スタッフの1人が何やらカンカンに怒って話をしていました。よく聞いてみると「ポリスはマジで最悪だよ。今朝も普通に歩いてただけで止められて、職務質問を受けたんだぜ」とのこと。その彼は、駅からノワカまで普通に通勤していただけなのに警察に呼び止められ、何をしているのか、どこへ行くのかなど聞かれ、IDの提示を求められたのだそうです。しかも、彼が「そんなことする義務はないはずだ。オレはただ、仕事に行こうとしているだけじゃないか」と答えたところ、その警官は彼が飲んでいたコーラのペットボトルを指さし「それ、本当にコーラ? アルコール入ってないよね」などと、かなり失礼なことを言われたのだとか。でも、彼がこういう体験をしたのも、私がこういった話を耳にしたのも、初めてのことではありません。
別のアボリジニの友人の息子は中学生なのですが、休みの日に両親に迎えにきてもらうために公衆電話から電話をかけていただけで、警察に呼び止められ、IDを見せろと言われたそうです。私や夫(白人)は道を歩いていて監視している警察をみたことは何度もありますが、呼び止められたことは一度もありません。また先日、アボリジニの友人と彼女の子供たち3人とスーパーのレジで並んでいたところ、すぐ横に並んでいた5歳ぐらいの小さな男の子が、お母さんの手を引き「ママ見て、アボリジニだよ。悪い人たちでしょ。おまわりさんを呼ぶ?」と言ったのです。その母親は逃げるようにしてその場を去ってしまい、私はあきれ、友人は苦笑していました。
オーストラリアでは、アボリジニに対する警察の対応は悪く、アボリジニというだけで不公平な扱いを受けることが少なくありません。例えば、公共の場での飲酒は禁止されているのですが、もしみつかった場合でも通常は現状注意、悪くて罰金程度ですみます。ところが、アボリジニの人たちが同じことをすると、即逮捕です。2008年の調査によると、刑務所内のアボリジニの人数は、刑務所全体の24%。アボリジニ人口はオーストラリア全人口の2.5%ほどですから、この数字がどれほど大きいものかが分かります。私のアボリジニの友人の中でも、過去に軽犯罪で刑務所に入ったことのある人も少なくありません。ある友人は、「アボリジニにとって、刑務所(少年院)は、学校みたいなもんだよ」と言っていました。刑務所で子供を産んだ女性や、刑務所で生まれたという人もいます。
また、刑務所でのアボリジニの人々の扱われ方の悪さも度々問題になっています。つい先日(2010年3月11日)にも、悲惨なニュースが報じられました。タウンズビル(Townsville)にある刑務所に軽犯罪で服役していたブリスベン出身の18歳の青年が、刑務所側の悪対応により亡くなりました。この青年は持病があり、10日間苦しんでいましたが、刑務官には「トイレに行くだけの元気があるなら、大丈夫なはずだ。何も問題ない」と、痛み止めを与えられ放っておかれたとのこと。最後に様態がかなり悪くなり、病院で集中治療を受ける段階になるまで家族には知らされなかったようです。
アボリジニというだけで、何の罪のない人々が警察やその他の人々から疑いや偏見の目を向けられることが日常的に起こっている中で、アボリジニの人々が腹を立てるのも当然です。しかし、そういった状況で暴言を吐くアボリジニに対し、周囲の目は冷たく「ああ、またアボリジニが暴れている。近づかないでおこう。」という感じです。こうした状況の中、アボリジニの若者は反発して罪を犯すようになり、警察はまたむきになって彼らを追い、刑務所のアボリジニ人口は増え続け、周囲のアボリジニに対する偏見はさらに強くなる...という悪循環の繰り返しなのです。
今後、オーストラリアの警察や刑務所がアボリジニの人々に対する不正な行為を改め、アボリジニの人々に対する社会の状況が少しでも良くなることを心から願っています。