やさしいHAWAI’ I

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第44回:未知の扉を開く呪文 Niulii
2013年12月13日

【written by 扇原篤子(おぎはら・あつこ)】1973年から夫の仕事の都合でハワイに転勤。現地で暮らすうちにある一家と家族のような付き合いが始まる。帰国後もその 一家との交流は続いており、ハワイの文化、歴史、言葉の美しさ、踊り、空気感に至るまで、ハワイに対する考察を日々深めている。
【最近の私】10月30日、右足首骨折。ハワイ旅行キャンセル。次男にふたごちゃん誕生。名古屋へギプスをはめてお祝いに。最近は1週間が束になって逃げていくのに、この1カ月はある意味、とっても充実していた。自宅療養中もじっくり手仕事をやったし。骨折で済んだことも、ラッキーだった。
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11月4日からのハワイ旅行を目前にして、私は自転車の横転事故で、右足のくるぶし剥離骨折と右足小指の付け根を骨折。転倒と同時に、あんなに楽しみにしていたハワイが突然目の前から消えていった。
44-image001.jpg久しぶりの再会を約束していたシマダさんには、なんと言おう。ケアホームに入所したシマダさんは、私がハワイを訪れるのを心待ちにしているのだ。がっかりさせたくないからといって隠しているわけにもいかず、まずジョージの奥さんエミにメールで事情を伝え、ハワイ行きが延びたことを連絡。次の日に意を決してシマダさんの携帯に電話をした。
「シマダさん、アツコです・・・」
「エミから聞いたよ。ケガしたんだって? ハワイへは来れないの?」
「右足を骨折して、ギプスをはめているの。1ヶ月は動きがとれないから、今回の旅行はキャンセルになりました。でもね、来年は必ず行くから。3月頃に必ず行くからね」
「アツコさん、じゃ私、それまでなんとか元気でいるからね。必ず来てくださいよ。今ね、ジョージとエミがとっても良くしてくれるの。昨日も私をランチに連れて行ってくれたの。私、涙が出るほどうれしいよ。ホントにうれしいよ」
気の強いシマダさんだが、情はそれ以上に強い。夫のジョーも亡くなり、息子はオアフ島に住んでいる。近くにいる甥のジョージとエミが毎週のようにシマダさんのケアホームを訪れ、買い物やランチに連れ出してくれるのが、何よりの楽しみとなっているようだ。

以前私が夫とハワイ訪問中、ジョージの一族みんなが集まり、ガレージでバーベキューをしたことがある。お腹もいっぱいになり、部屋に入ってデザートのケーキを食べていた時のことだ。シマダさんが珍しく昔の思い出話を始めた。
「ヨコヤマの兄さんは、子供の頃とってもスマート(頭がいい)だったのよ。成績もとてもよかった」 「ヨコヤマさんはコハラ(ハワイ島北部の小さな町。カメハメハ大王の故郷)の生まれだと聞いていましたけど、コハラのどの辺ですか」
「コハラのもっと先のニウリというとこよ。小学校はマカパラ」

これは私たちにとって全くの初耳だった。あれほど親しくしていたリチャード・ヨコヤマさんだったが、幼いころの話は一度も聞いたことがなかった。私は急いで紙とペンを出し、その街の名前を書いてもらった。
「確かNiulii というスペルだったと思うよ。小学校はMakapara-elementary school」

この『Niulii』という文字を目にしたとたん、私にはそれが未知の扉を開ける呪文のように思えた。ハワイ島に滞在している間にヨコヤマさんの生まれた、このNiuliiという場所に行ってみよう。そしてヨコヤマさんが子供の頃を過ごしたMakapara小学校をこの目で見てみたい。私は突然そう思い立った。

ヨコヤマさんの両親の写真は、彼の自宅の仏壇に飾ってあったのを覚えている。ヨコヤマさん宅を訪れるたびに、何度も目にしたセピア色にくすんだ古い写真だ。お父さんは名前を横山亀吉といった。お母さんは写真花嫁として同じ広島から嫁いできた。そこまでのことは知っていた(第8回、第9回参照)。そしてシマダさんの話から分かったのは、ご両親はハワイ島北部の『Niulii』というところに生活の基盤を置き、サトウキビを育てる生活を始め、リチャードさんを始めとする家族を形成したということだ。
「シマダさんやヨコヤマさんのご両親は、広島のどこに住んでいたのですか?」
シマダさんは、はっきりと答えた。「確か、安芸の中野といったよ」

これでリチャード・ヨコヤマさんのルーツがはっきりした。
広島の安芸、中野に住んでいた横山亀吉さんは、新天地を求め、1カ月以上の長い船旅の末ハワイにたどり着く。そして写真を携えてやってきたお嫁さんとともに、ハワイ島Niuliiという場所で、苦労しながらも必死に家庭を築き上げた。
よし! ヨコヤマさんのハワイでのルーツを、この目で見よう! そして、いつか広島へも行ってみよう!

見に行かなければならないところは、まだたくさんある。シマダさんとの約束も果たさねばならない。骨折よ、早く良くなれ!