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「室町東洋」: 人種のるつぼの国から来た「フライドチキン」
2012年06月08日

【written by 本多綾子(ほんだ・あやこ)】ミーハーのDNAを持ったサッカーファン。2010年には28試合を観戦した。心のチームは鹿島アントラーズ。最近はスタジアム・グルメにもはまっている。
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『ヘルプ~心をつなぐストーリー~』は、メジャー映画の大作が多いハリウッドでは珍しく、口コミで人気が広がった映画である。舞台は1960年代のアメリカ。"ヘルプ"と呼ばれる黒人メイドを軸に、彼女たちの人生を本に書く若い白人女性、黒人に対する扱いを差別とすら感じていない雇い主の女主人、結婚こそが女性の幸せだと考えている母と反発する娘、さまざまな立場の女性が織りなすドラマだ。大ヒットの一番大きな理由は、今年のアカデミー賞助演女優賞を獲得したオクタヴィア・スペンサーやヴィオラ・デイヴィスといった個性的な女優の演技力や脚本の素晴らしさにあったのだろうが、1963年当時のアメリカ南部の人々を生き生きと蘇らせた衣装や料理の存在も忘れてはならない。

女性たちの服装はニューヨークのような大都会で流行っていたものではなく、保守的な南部の町らしく、あえて"流行遅れ"のデザインを採用したという。また、黒人メイドが腕をふるって作る南部料理は豪華で、「アメリカの料理=美味しくない」という先入観が崩されていく。そして、作品の中で大切な役割を果たしているのが、黒人メイドのミニーが料理下手のシーリアに教える"フライドチキン"。2人の友情の証として登場するのだが、映画を見ていると、なんとしても見事に揚がった骨付きのチキンを食べてみたいという欲望に駆られた。というわけで、友達3人を誘い、日本橋三越前の洋食レストラン「室町東洋」へと行ってみた。

muromachitoyo_3.jpg昭和初期の米店が前身という「室町東洋」はプロ野球選手のユニフォームがあちらこちらに飾ってあり、店の雰囲気はいたってカジュアル。店内にあるテレビでは野球中継が流れていて、昭和の匂いがするスポーツバーといった感じだ。メニューを見て驚いたのは、日本橋のど真ん中にある店なのに、ほとんどの料理の値段が3ケタに収まること。調子に乗ってフライドチキンを始め、あれもこれもと頼んでみた。

お通しに出た「筍の土佐煮」や前菜の「5種類のソーセージ」は、さすがレストランといった味。安い居酒屋と違い、味をスパイスや調味料で誤魔化していない。筍は新鮮で歯ごたえがよく、ソーセージは肉のうま味が十分に出ている。私は味に満足しながら、なぜフライドチキンが食べたかったのかと友達に熱弁を奮っていた。

muromachitoyo_1.jpgそして、ついに待ちわびていた、フライドチキンがやってきた!ところが、お皿を見てびっくり。それは私が思い描いていた骨付きのチキンではなく、見事に"鶏の唐揚げ"だったのだ。見かけは"鶏の唐揚げ"でも、味付けは違うのではないかという望みは友人の一言、「唐揚げですね」で泡と消えた。かなり残念だったけれど、"唐揚げ"のようなフライドチキンは、醤油、ニンニク、しょうがの味が肉に染み込んでいて、とても美味しかった。

しかし、フライドチキンが生まれた背景を考えると、この店のフライドチキンが実は鶏の唐揚げだったというのも不思議はないのかもしれない。スコットランド移民の鶏料理だったものに、アメリカ南部の奴隷がスパイスを加えて作ったのが現在のフライドチキンだ。「人種のるつぼ」と言われるアメリカらしい料理である。そのフライドチキンが「各国料理のるつぼ」とも言える日本にやってきて、この店では洋風の名前だけを残し、姿も味も日本独特の "鶏の唐揚げ"に変化した。西洋料理を日本人好みにして「洋食」という食文化を築いた国ならではのことである。

muromachitoyo_2.jpg気がつけば、オムレツや手羽餃子など、4人で20品近くを平らげていた。オムレツは柔らかめの卵にデミグラスソースがたっぷりとかかっており、4人でも十分な量。また、手羽餃子は手羽先とひき肉の量のバランスもよく、皮もパリっと揚がっていて香ばしい。お酒の種類も多い店なので、ちょっとした集まりに最適の場所だ。「室町東洋」には、ほかにも鉄板焼き専門のフロアがある。次回はそちらで、徳島から直送の黒毛和牛を使った「和牛ステーキ」も味わってみたい。

★お店情報★
店名:室町東洋
ジャンル:レストラン
電話番号:03-3241-0003
住所:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町1丁目5−2
交通手段:銀座線・半蔵門線「三越前」駅より徒歩1分 JR「新日本橋」駅より徒歩7分
営業時間:平日/11:00-16:00(昼)16:00-23:00(夜)
土曜・日曜/11:00-16:00(昼)
祝日/11:00-16:00(昼)16:00-21:30(夜)
定休日: なし