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「カフェ・エメ・ヴィベール」:幸せのひとくち
2011年02月10日

【written by 樋口孝一(ひぐち・こういち)】最後の晩餐に食べたいモノが、年を取るごとに変わっていきます。昔はグリーンカレー、最近はエノキ炒め。次は何になることやら。
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IMGP8522.JPG今回訪れたのは、昨年オープンした「コレド室町」の1階にある「カフェ・エメ・ヴィベール」。古き良きパリのカフェを再現したという店内は落ち着いた雰囲気で、ワインレッドのシートが印象的だ。早速、おすすめの「クロックムッシュ」を注文する。すりおろしたチーズが入ったモルネーソースとハムをはさんだパンの上には、チーズフォンデュでもお馴染みのグリュイエールチーズがこぼれ落ちそうに盛られている。こんがりと焼けていて、チーズ好きにはたまらない。食べてみると表面のカリッとした食感とふわふわのパン、トロっとしたソースが口の中に広がっていく。味と香りに幸せを感じながら、かつて訪れたある店と、ある映画を思い出した。

1899年にオープンし、創業100年を超えるパリの
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老舗カフェ「フーケッツ」。ワインレッドのひさしがシャンゼリゼでもひときわ目立つ。通りに面した席で、行き交う人々やプジョー車を眺めながら食べたこの店のクロックムッシュは格別だった。焼けたチーズがたっぷりとのってボリューム感も満点。パンのおいしさはもちろん、中にはさんであるハムの深い味わいに思わずペロリと平らげ、幸せな気持ちにさせられた。レマルクの小説『凱旋門』に登場し、各界の著名人も訪れるこの店では、毎年2月にフランス映画界で最も権威のある「セザール賞」の受賞パーティーが開催される。過去にこの作品賞に輝いた映画の一つに『戦場のピアニスト』がある。

この映画は、第二次世界大戦の直後にポーランドで刊行されたノンフィクションが元になっている。ナチス・ドイツのポーランド侵攻後、ユダヤ系ポーランド人のピアニストであるシュピルマンが、ワルシャワの廃墟の中を生き抜くさまを描いた作品だ。敵に追われながら隠れ家を次々と変えていくが、ついにドイツ人将校に見つかってしまう場面。戦争という極限状態において、音楽が命を救うというエピソードと、シュピルマンが奏でるショパンが心に残る名場面だが、私の印象に残ったのはこのあと。将校から差し入れてもらったパンに添えられたジャムを、屋根裏に隠れ続けるシュピルマンが目を閉じて、いとおしそうに味わうところだ。エメ・ヴィベールでクロックムッシュを堪能したときにふと思い出したのは、まさにこのシーンだった。彼と私の置かれた状況はまったく異なるが、食べる喜びが幸せや希望に繋がるのは、きっと同じだ。

そういえば、1810年にポーランドで生まれたショパンが最期を迎えたのは、パリであった。パリに想いを馳せながら、エメ・ヴィベールで幸せなひとときを過ごしてみては。ちなみにクロックムッシュは平日の11時から14時のみのメニューなので、ご注意を。

★お店情報★
店名:カフェ エメ・ヴィベール
ジャンル:カフェ&ブラッスリー
電話番号:03-6225-2552
住所:中央区日本橋室町2-2-1COREDO室町
交通手段:東京メトロ三越前駅・JR新日本橋駅 直結
営業時間:10:00~23:00(ランチL.O.14:00、カフェL.O.17:00、ディナーL.O.22:00)
定休日:不定休